upppiは縦読みコミック(タテコミ)・イラスト・小説が無料で楽しめるサービスです!

ようこそ!ゲストさん
シリーズ:近いうちに解散
閲覧数の合計:159

作品を編集する

  • シリーズタイトル・ジャンルの修正
  • この章を改訂する
  • この章を削除する
  • シリーズに作品を追加する
  • 表紙画像の変更

近いうちに解散

作者:不知詠人

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
    • タグ:
  • 編集協力者:

    政治における「近いうちに」の定義は?


    登録ユーザー星:2 だれでも星:0 閲覧数:159

    近いうちに解散 2492文字

     

     とある議院内閣制の国で、増税を行おうとした与党と反対する野党各党が深刻な対立に突入。下院では与党が圧倒的多数を占めていたが、上院では野党が合計で過半数を制しており、いわゆる「ねじれ」の状態に陥っていた。
     増税法案は両方の院で可決されないと成立しないため、与野党の対立は完全に議会の機能を麻痺させ、野党は増税とは関係ない他の全ての法律案に対しても審議拒否を行った。
     与党の党首でもある総理大臣は事態打開のため、夏の初めに有力野党二党の党首と党首会談を行い、下院の解散、総選挙を求める野党の圧力に屈し、「近いうちに国民の信を問う」との約束と引き換えに、かろうじて増税法案を成立させた。
     通常国会の終わりの期限が迫っていたため、野党は国会閉幕直前に下院が解散されると予想し選挙準備に入った。だが総理大臣は通常国会の会期延長を決定、来年度予算の編成を始めるとマスコミに発表した。
     その国の政府予算は年末に翌年度の予算が決定されるため、与党が年末まで政権に居座るのではないかと野党は心配した。野党各党は国会のあらゆる場面で総理大臣に「近いうちに」と言ったではないか、と追及。
     だが与党の幹事長は「年内であれば近いうちと言える」とマスコミに発言。これに激怒した野党は再び審議拒否戦術に転じた。
     その与党は失策に次ぐ失策で国民の人気が急低下しており、選挙をやれば惨敗は必至。なんとか解散、総選挙を一日でも先延ばしにしたい党員と、約束を守れと迫る野党の板挟みになって、総理大臣は「やるべき事をやったのちに、国民の信を問う」と発言。
     野党の「それはいつなのか?」という追及に総理大臣は「然るべき時に」と答弁した。ここで野党は秋が終わる頃、と解釈しどうでもいい法案の審議には応じた。そして通常国会が終了、閉幕し、野党が再び選挙準備に入ったところで、与党が特例公債法案を審議するため臨時国会を開くと宣言した。
     その国の政府は毎年大赤字で国の借金、いわゆる国債を毎年大量に発行しないとお金が足りなくなってしまう。そのための法律案なのだが、野党は「そんな物は予算案と一緒に処理しておくべきだろう」と猛反発。
     政府のお金が底をついて役所の機能が麻痺するのは困るので、野党もしぶしぶ臨時国会には出席したが、せめてもの腹いせに、野党が多数を占める上院では総理大臣の所信表明演説をさせない、という行動に出た。
     いったいいつになったら下院を解散するのかと追及する野党に総理大臣は「やるべき事をやったのち、そのうちに」と答弁。時期をもっと明確にしろとさらに野党が迫ると「そのうちに、とはそれ以上でもそれ以下でもありません」と答え、ますます野党を激怒させた。
     その国では解散総選挙については、総理大臣が嘘をついても許されるという長年の風潮があったため野党は最後の手段として、上院で総理大臣に対する問責決議案を可決。これは総理大臣がその職にふさわしくない、辞職するべきだ、という宣言の意味を持っていたが、法律上は総理大臣がこれに従う義務はない物だった。
     次の総選挙で落選する事を恐れる与党議員の圧力で、総理大臣はやむなく居座りを決意。特例公債法案は店ざらしとなり、十一月の終わりにはついに政府の財源が枯渇。国家公務員の給料遅配、公共工事の一時停止、地方自治体からの国民への福祉支給がストップする最悪の事態となった。
     野党各党は公然と総理大臣を「うそつき」呼ばわりし、翌年の通常国会では毎月、いつ下院を解散するのかについて、与野党の論争が激化した。
     総理大臣は解散の時期について「もう少ししたら」「出来るだけ早く」「可能な限り早く」「可及的速やかに」「あと少ししたら」「多分もうすぐ」と答弁を続けた。その年の夏は、不毛な言葉のやり取りで終わり、九月になった。与党幹事長は野党のさらなる追及をなんとか和らげようと、小学生百人を毎日国会の傍聴席に招待する事を提案。
     将来を担う子供の前で口汚い総理大臣への非難はできないだろうという企みだった。野党は「将来の有権者に国会をもっと知ってもらう」という建前に反論出来ず、しぶしぶ受け入れた。
     そして小学生百人が傍聴する初めての国会審議で、野党は言葉こそ丁寧にはなったが、またぞろ解散の時期を総理大臣に問いただした。総理大臣はさすがに言葉が尽きたのか、再び「近いうちに」と答弁。野党は「将来の有権者」の前で総理大臣が堂々とうそをついた、という宣言文をただちに準備。
     マスコミ発表の直前、記者のインタビューで国会審議の感想を聞かれた小学生の一人が遠慮がちにこう答えた。
    「あのう、総理大臣に質問したい事があるんですが」
     人気挽回のチャンス到来と、すっ飛んできた総理大臣にその子はこう言った。
    「あのう、下院議員の任期は最長で四年だと授業で習ったんですけど」
     思いがけない質問に総理大臣と与党幹事長は戸惑ったが、ああ、そんな初歩的な事かと安心して、そうだよと答えた。するとその小学生は困惑した顔で、言葉を続けた。
    「だったら、今の議員さんたちの任期は今年の八月で終わっているはずなんですけど。今はもう九月ですよね?」
     その場にいた総理大臣をはじめ国会議員全員が、次の瞬間固まってしまった。その子の言う通り、下院議員の任期はとっくに終わっていて、本当なら任期満了で自動的に解散総選挙が行われていなければならなかった。
     与野党とも国会での論争に夢中になり過ぎて、全員それを忘れていたのだ。もちろん官僚は気づいていたが、近年「政治主導」の名のもとに官僚の排除がまかり通っていたので、怖くて誰も何も言えなかったらしい。
     その国の憲政史上、初の一か月遅れの任期満了後の総選挙があわてて行われた。前職の国会議員から大量の落選者が出た事は言うまでもない。

    (この国はあくまでフィクション、架空の物であり、実在する国家とは、全く、全然、一切、なんにも、決して、誓って、いや本当に、何の関係もありません。)

    ←前のページ 現在 1/1 ページ 次のページ→

    1ページ目に戻る
    ▤ 目次ページに戻る


    お気に入りリストに追加 この作品を応援する

    応援ボタンを押す事で作品の★が増え、作者に「イイね!」を伝える事ができます。

    コメント

    作者紹介

    この作者の人気作品

    小説 の人気作品

    続きを見る