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シリーズ:Wのリング
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Wのリング

作者:三塚章

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    妻は、あっけなく事故で死んでしまった。残されたのは見覚えのない指輪で……なろうに投稿したのを書き直しました。


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    Wのリング 2062文字

     

     後妻である明美の死は、間抜けなほどあっけないものだった。駅で、落ちた指輪を拾おうとして身を屈めたひょうしにホームから落ち、やって来た電車に切り刻まれたのだ。普通、指輪なんてすぐに外れるものではないだろうに、運が悪いとしかいいようがない。
    俺が前妻の優子と別れ、不倫相手だった明美と結婚したのは数年前のこと。二人の間に子供はなく、明美が死んだ今、家族と言えるのはポメラニアンのブロックぐらいだ。しかしその犬も獣医の世話になりっぱなして、もう長くはないだろう。
    「これが奥様の遺品です」
    そう警察から渡されたのは、いつも妻が持ち歩いていた小さなバッグだった。中に細々とした物が入っている。折りたたみの傘、小さな手帳、妻の匂いのする化粧道具。その中に、ケースに入った小さな指輪があった。黄色がかった宝石がはまっている。妻は、これを拾おうとして命を落としたのだ。間接的に妻を殺したその指輪の存在が、俺には不気味に思えた。
    見慣れない指輪だった。少なくとも、俺が買ってやった物ではない。あまり高そうな物ではないし、明美が自分で買ったのかも知れないが、俺に一言あってもいいのに。それに、俺は彼女がこの指輪をはめているのを見たことがない。
    ケースをわざわざも持ち歩いているところを見ると、俺の目に触れないように家にいる間はこれにしまっていたのだろう。
    ひょっとしたら、他の男からの贈り物だったのだろうか。離婚した後も前妻の優子をののしるほど嫉妬深い性格だったのに、浮気をしていたのだろうか? この指輪が明美を殺す原因になったのだと思うとそれも気持ち悪く、俺はロクに見もせず、むき出しのまま指輪をテーブルに放りだした。あとで売り払ってしまおう。
    苦労して結婚したのに、最近は明美とうまくいっていなかった。無駄遣いをしてわがままな明美にだんだんと気持ちが冷めていった。明美も俺の愛が減っていっているのを薄々感じていただろう。
     そう考えると、我ながら自分勝手だが前妻の優子が懐かしくなった。
    優子は、俺と離婚してから数年後、不意の病でこの世を去っている。彼女は離婚こそしたものの、浮気がバレたあとも亡くなるまで、ずっと俺のことを愛し続けてくれたのだから。

     気がついたら俺は優子の墓の前に立っていた。墓参りの時期ではなく、優子の実家のM家の墓には誰もいない。線香を手向け、祈り終わって顔をあげたとき、妙な違和感があった。
     優子の墓の前、骨壷を入れる空間のふたが少しずれていた。
    「え……」
     思わず線香をつけるためのロウソクを近付け、中をのぞきこんだ。
     暗闇の中、針金でくくられ、長い年月で変色した骨壷が整然と並んでいる。
     おかしい。M家の墓だから何人の先祖が納められているか知らないが、優子が亡くなったのは比較的最近だ。それなりに新しい物がなければおかしい。それなのに入っているのはどれも何十年も経っていそうな物しかない。それが、なぜ?
     ありえないとは思いながら、優子の幽霊が自分の骨を抱いて墓から抜け出る様がつい頭によぎった。そして、ふらふらとどこかに去っていく光景が。

     警察や優子の実家に連絡を入れてから、俺は自宅へ戻った。
     暗い居間の電気をつけると、いやな予感がした。いつもよたよたと迎えてくれるブロックが今日は寄ってこない。居間に入り、明かりをつけるとソファの上でブロックが丸まっていた。背をなでると冷たくなっていた。まだ学生の頃から一緒にいたブロック。そっと背中を撫で続けてやりながら、涙が止まらなかった。
     けれど、いつまでも泣いているわけにはいかない。ペットの葬儀をしてくれる業者を探さなければ。
     毛布を敷いたダンボールにブロックを寝かせて、パソコンを立ち上げる。
    かわいらしい犬や猫のイラストや写真で飾られたサイトをめくると、メモリアルジュエルというのが目に入った。
    ダイアモンドは突き詰めれば炭素の塊だ。動物の骨にも炭素が含まれている。つまり、愛犬の骨を使い、特殊な技術で記念のダイアを造ってくれるという。そのサイトに載っている宝石の写真は、淡い黄色をしていた。
    マウスを持つ手が汗で湿ってくる。机の上に置いていた明美の指輪が輝いた。黄色がかった宝石のついた指輪。その内側に、アルファベットが刻印されているのに気が付く。
    『Y・M WWW』
     Y・Mは優子のイニシャルだ。そして優子の骨壷がなくなった墓。口が乾いて、俺は唾を飲み込んだ。
     この宝石は前妻だ。優子の骨で作った宝石だ。明美は、優子で自身の身を飾ったのだ。でも、明美はなんでそんな事を。そしてこの『WWW』は……
     開きっぱなしのサイトの隅で、広告がちかちかと瞬いている。ギャグマンガらしいイラストの上を、あおり文句が右から左へと横切っていく。
    『うはWWWWWWW こんなんでも主人公WWWWWWW』
     笑いと嘲笑を表わすw(ダブリュー)の連打。
     泣きも笑いもできない石になった相手に、自分の幸せを見せびらかすための指輪。でも明美は結局この指輪を拾おうとして……
    遠くで電車の警笛が鳴った気がした。どこかで勝ち誇った優子が笑っている気がした。

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    コメント

    • 後妻の地位に満足せず、更に見せつけたくなる浅ましい心が悲劇を生む。
      人間らしさがホラーになっていてすごいと思いました。
      とても心に残る作品でした。
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    • 下り絵さん
      やはりホラーの本質は、よくも悪くも異常なほど強い人間の感情だと思うので、「人間らしさがホラーになっている」と言ってもらえて嬉しかったです。
      感想ありがとうございました!
      • 0 fav

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    • 短編であることを利しているスピーディーな話運びが読みやすかったです。盛り込まれたネタも多く特にメモリアルジュエルはよかったです。それを利用した明美の行為を含め、男の知らないところで起こった女の戦いは激しくドロドロして下世話ながら目を離せない魅力がありました。ただ主人公の不倫設定は優子の愛を示すにはあくが強すぎると思いました。明美がvipperなのもどうかと思いましたが、こっちはタイトルロールなんですよね。大胆です。いろいろな意味で独創的な作品に思いました。短い中に魅力的な題材がちりばめられている良作だと思います。
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    • しかぞうさん、ここ最近投稿した私の作品すべて読んでいただいたようで本当にありがとうございます。
      >メモリアルジュエルはよかったです。
      >女の戦いは激しくドロドロして下世話ながら目を離せない魅力がありました。
      ありがとうございます! 普通に怪異が出てくる話も好きなのですが、「人間の方が怖い」系の話も好きなので、怪異+どろどろの人間関係を混ぜてみようと思いました。
      「ただ主人公の不倫設定は優子の愛を示すにはあくが強すぎると思いました」となったのは、そのせいもあると思います。
      >明美がvipperなのもどうかと思いましたが、
      そうか。wwを使っているのは主にネットやってる若者ですからね。
      • 1 fav

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