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シリーズ:カナカナ
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カナカナ

作者:てしお かゆみ

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    自分に自信のない大学生奏は、たまに自分の元を訪れる新庄との関係を問う勇気のないまま過ごしていた。そんなある日バイト先の上司である河合と関係を持ち、自分の中の恋愛の価値観の変化と共に惹かれていく。
    傷つけることを恐れる恋と、分かりあう恋。
    二人の人との恋に奏が出した恋の形は。


    登録ユーザー星:22 だれでも星:108 閲覧数:18109

    カナカナ 50630文字

     

    第一章 カナカナ

    ドアの鍵が開く音に、まどろんでいた意識がふわりと浮きあがる。
    昨夜、隣にあったはずの温もりはとうに消えていて、ノロノロと起き上がると開けたままの玄関の鍵を閉める。
     昨夜一緒に眠っていた彼―――新庄明良との出会いは高校時代。家庭教師として紹介された日の事を今でも忘れた事はない。
     切れ長の目に短く揃えた髪。大学生と言う割には落ち着いた、けれど何処か野性味のある彼の表情に釘づけになってしまっていた。
    「遠坂……奏君?」
     良く通る低い声で名前を呼ばれ、慌てて頷いた奏に「怖がらせちゃったかな?」と笑う様子は屈託がなく、最初に感じた色々なものを簡単に取り払ってしまった。
     そして、憧れに似た感情だけが強く残った
     元々、高校生になっても異性に関心が持てず、どちらかと言うと新庄のような年上の男性に対して憧れのような、複雑な感情の入り混じった思いを抱きがちだった。
     程なくして新庄に求められるまま関係が始まり、大学生になった今もこうやって数か月に一度訪ねてくる新庄を招き入れては抱かれる生活が続いている。
     恋人同士ではない。それは奏自身がよくわかっている。
     新庄に対して抱いている感情は当初から憧れで、だから初めて抱いてもらった時は天に昇る程嬉しかった。
     痛む体を気遣って貰い、優しい声をかけられ、またこうして抱きたいと告げられた時には迷う事なく頷いていた。別に今でも望まれれば毎日だって会いたいし抱かれたい。
     それでも心の中ではもう一つの感情が渦巻いている。別に自分でなくてもいいのではないか、と。
     彼のセックスは奏にとって繋がる喜びをもたらしてくれるが、それは決して自慰以上の快感には繋がらない。荒々しいまでのセックスに翻弄され、気が付けばいつもこうして自分一人のベッドで眠っている。
     つまり家庭教師の役目を終え、一流企業に就職をした新庄と自分の間にある関係はセックスフレンド以外の何物でもない。
    「しまった……、時間だ」
     携帯にセットしていたアラームの告げる電子音に考え事を止めると、慌てて身支度を済ませ、鞄を手にする。
     今日は授業が終わればそのままバイト先に直行になる。このバイト先も新庄の口利きで、彼の勤める会社の子会社の一つだった。
     自分でなくてもいいのなら、バイトを紹介してくれたり、折角空いた時間をこんな狭いアパートで過ごしてくれたりなどしないだろう。
     思いこみなのかもしれない……注意深く玄関の鍵を確認しながらそう思う。次に「会いたい」と連絡が入るのはいつか分からない。むしろ、入らない事の方がずっと多く、不意に訪れる彼を待つだけの日々を過ごしている。セックスフレンドの奏の為に裂いてくれる時間があるのなら、笑顔で迎えてやればいいじゃないか。そう考えてしまうと、それで良いような気がしてしまう。
     同性に対する恋愛観自体がタブーだと言う思いが強いからかもしれない。セックスだけの関係であっても、特定の人がいると言う事はマシだと思えるのだから。
     「こんにちは」
     営業課と書かれたプレートの扉を押してタイムカードを押すと、部屋にいた数人の社員が奏に向かってにこやかに手を振る。
    「こんにちは。遠坂君、今日は授業だったんだ」
     大きな鞄を手にした奏に向かって、主任の遠藤が声をかける。
    「はい。ゼミがあったので、色々」
     ロッカーに入り切れない大きな鞄を部屋の隅に置くと、自分の机のパソコンを開く。
     新庄に紹介されて入ったバイト先は健康食品の通販を主にしていて、奏は輸送関係の苦情処理入力を担当していた。
     大手商社の子会社とは言っても、業界では売上のトップを走っている。
     オペレーターの数も多ければ、それだけクレームの数も多い。奏の仕事はクレーム対応した担当からのメモをきちんと読み、それを要約して打ち込んでいくものだが、きちんと打ち込まなければ同じミスを何度も繰り返し、顧客離れを招いてしまう。
     営業の人達と言葉を交わしながら、画面が立ち上がると同時にデスクの上に積まれたクレームの書かれた用紙に視線を向ける。
    「遠坂君が来たし、俺たちは上がろうかな?」
    「はい。お疲れ様でした」
     隣のオペレーター室は夜八時までだが、営業部は普通に夕方までの勤務の人が多く、夕方から夜にかけてバイトをしている奏とは入れ替わりになることが多い。
     今日は殆どの人が定時あがりなのだろう、「おつかれ」と告げて次々に社員達が帰っていく。
     扉が閉まりシンとなった室内を見渡すと、小さくため息をついてからキーボードへ指を走らせる。
     細かく内容を書いてくれる人もいれば、情報としては感情的すぎるものもある。それらに丁寧に目を通し、一度クレームをつけてきた人からのものならばその情報に上書きをして運送会社ごとのフォルダに分けていく。

    「はい……」

     カタンと言う音と共に缶コーヒーがパソコンの横に置かれ、突然の事に驚いた奏が弾かれたように顔をあげる。
    「部長?すみません。俺、気づかなくて」
    「いいよ。黙って入ってきたからね」
     片目を閉じて笑ってみせると、ここの営業部長である河合誠一がポンと奏の肩を叩く。
    この会社が大きくなった理由の一つが河合の手腕だと、以前他の社員から聞いた事がある。
     製品自体は業界内ではごく一般的なものだが、流通コストの他にクレームへの対応が徹底していた事が評判になり、口コミでここまで大きくなったのだ。
     ”クレーマーをフアンに”その言葉通り、苦情を多く告げる客ほど対応が良ければ会社を支持するし、口コミの度合いも強まる。
     多分、人間を見る目が確かなのだろう……まだ三十代半ばの河合の手腕を奏はそう見ていた。
    「今日はゼミだったの?」
    「はい。すみません、大きな鞄持ち込んで……」
     キーボードに打ち込む手を止めると、パカンと音を立てて貰った缶コーヒーのプルタブを開ける。
     同じように自分の席についてコーヒーを飲みだした河合がゆっくりと首を振り、穏やかな笑顔を向けてくる。
    「学生なんだから当然だよ。ちゃんと授業を受けてるんだって安心した」
    「受けてますよ。成績は誇れませんけど」
     新庄が家庭教師として来ていた時は自分でも驚く程成績が上がった。
     褒められたい。少しでも早く家庭教師としての時間が終わればご褒美だと抱いてくれる事が、あの当時は嬉しかった。
     けれど、新庄の後を追うように同じ大学に入ってみて、あまりに目的のない自分自身に実際は失望してしまい、周囲と同じように追試さえ受けなければと言うような態度を取りがちだった。
    「就職活動は?三年生ならもう始まってるんだろう?」
    「ええ、一応。説明会にはいくつか」
    「うちに来るって決めてしまえば、後は遊べるんじゃないかい?」
    「無理ですよ。成績が悪すぎて、上から落とされます」
     笑いながらそう答えると、再びキーボードへと指を走らせる。
     カタカタと言う無機質な音だけが響き、神経は目の前の紙とディスプレイだけに向けられる。
     どれぐらい時間が経っただろうか、再び肩を叩かれ顔を上げた奏の前に酷く寂しげな笑顔を向ける河合が立つ。
    「あまり根を詰めるなよ。君のお陰で、彼女達は安心して仕事をしていられると分かっているが……」
     河合の言う彼女達と言うのはオペレーターの女性達の事なのだろうと気づく。浅く頷いた奏に微笑みかけると、もう一度だけ肩を叩いて河合が部屋を後にする。
    「お疲れさまでした」
     奏の声に片手を挙げて目を細めるその姿が扉の向こうに消えるのを待って、椅子の背にもたれかかる。

     ギシッと言うその音は昨日のベッドの音に少しだけよく似ている。いつもとは違う、支えきれない重さに軋むスプリングを数回鳴らすと、止まってしまった仕事を再開する。
     目の前の紙が片付いたのは、それから一時間後の事だった。
     クラッシックが流れる店内に足を踏み入れると、カウンターから「いらっしゃい」とハスキーな艶めいた声が聞こえる。
     馴染みのゲイバーはいつ訪れても控えめな暖かさを湛えていて、安心して扉を閉めるとカウンターの中でこの店のママが小さく手を振る。
    「こんばんは」
    「あら、大きな荷物ね。アルバイト先から直行?」
     ママが奏の手にした鞄を見て、笑いながらスツールに招き入れる。

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    コメント

    • 自分では想像していなかった閲覧数と★をありがとうございました。
      結果をきちんと受け止めて、前向きに新しい話を書いていきたいと思います。
      本当に読んでくださってありがとうございました。
      • 4 fav
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    • 河合さんが素敵すぎて、悶え転がりました。カナくんが健気で可愛すぎます。新庄さんも幸せになれたらいいな、と思いました。新庄さんの今後のお話も読みたいです。もしろん2人のその後も!
      • 5 fav
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    • 感想ありがとうございます。
      年上の落ち着きみたいなものに憧れがあって河合のようなキャラになったのですが、気にいっていただけて嬉しいです。
      新庄もきっとこの後、本当の意味で恋愛が出来るんじゃないかなと思います。
      ありがとうございます。
      • 0 fav

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    • 拙い話ですが、たくさんの人に読んでいただけると嬉しいです。
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    作者紹介

    • てしお かゆみ
    • 作品投稿数:1  累計獲得星数:130
    • 日々妄想ばかりしている主腐です
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