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シリーズ:黒髪の彼女
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黒髪の彼女

作者:三塚章

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    目を覚ましたら、見知らぬ女性がいた。寓意かも知れない。


    登録ユーザー星:6 だれでも星:4 閲覧数:252

    黒髪の彼女 2180文字

     

     額に心地よい冷たさを感じて、僕は目を覚ました。見慣れた天井がぼやけて見える。
    「あれ……」
     仕事中、頭と寒気が酷くなり、無理を言って帰らせてもらい、アパートの扉を開けた所までは覚えている。しかし、どうやって布団に入ったのか記憶はなかった。しかも、いつの間にか濡れたタオルが額にのっている。
    「よかった、目が覚めましたか」
     聞きなれない女性の声がして、俺はそっちに顔をむけた。
     布団の横に、若い女が座って微笑んでいる。艶やかな黒髪を腰まで伸ばした美女だった。これまた黒いタートルネックのセーターの下は肉感的な体つき。
    「あなたは玄関で倒れていたのですよ」
    「え……じゃあ、僕を布団に寝かせてくれたのは」
    「ええ、勝手に押入れを開けさせてもらいました。すみません。今度は台所をお借りしますね。おかゆを作ってきます」
     彼女は立ち上がり、台所へむかおうとした。
    「あ、あの、君は一体誰? どうしてここに……」
     僕の当然の質問に、彼女は立ち止まって困ったような笑顔を浮かべた。
    「どうか、それは聞かないで。怪しい者ではありませんから。私はただ、あなたの看病をしてあげたいだけ」
     本当だったらそんな言葉で納得なんかしないはずだ。だが、その時僕は「そうなのか」とその言葉を素直に受け入れた。重ねてあれこれ聞くこともしなかった。
     まだ熱でぼうっとしていて、半分夢を見ているような気分が抜けていなかったのもあるだろう。悪い人には見えなかったし、看病してくれる手が欲しかったというのもあったかも知れない。でも、一番の理由は下手にあれこれ質問して、彼女が帰ってしまうのが恐かったのだ。どういうわけか僕は、ろくに知らない彼女に傍にいてほしいと願っていた。ようは、一目で惚れてしまったのだ。
    「あの、せめて名前を教えて。僕は君をなんて呼べばいい?」
     そういうと、彼女はかわいらしく小首をかしげて何か考えているようだった。
    「そうですね。ではクロとでも呼んでください」
    「クロか。なんかネコみたいだね」
     僕の言葉に、クロは静かに微笑んだ。

     それから、僕達は数日の間朝も夜も新婚夫婦のようにすごした。相変わらずクロは自分が何ものかも言わなかったし、なぜ僕の家に来たのかも言わなかった。僕も何も聞かなかった。だって、昔話ではこういった不思議な女性の正体を知ってしまったが最後、いなくなってしまうものだから。鶴の恩返しにしても、女に化けた狐にしても……
     第一、僕はもう彼女の正体に興味はなかった。大切なのはクロが傍にいること、それだけだ。
     僕のカゼもよくなって、ある日の午後、僕はクロと夕食の買い出しに出掛けていた。僕が手にしているビニール袋には二人用のナベの材料が入っている。
     夕暮れの小さな交差点は、人の流れもゆっくりで、なんだかシチューのCMに使われそうな穏やかな雰囲気だった。
     鍋のどの具が一番好きか、なんて他愛もないおしゃべりをしているとき、まるでカン高い悲鳴のようなブレーキ音が耳を突ん裂いた。
     角をまがり、信号無視をした車が、もう手が届きそうなほど僕に迫っていた。急ブレーキにタイヤのゴムが焦げる嫌な臭いがした。
     僕は思わず目をつぶった。
     誰かが僕の手を引く。そのままアスファルトに転がる。肘を擦りむいた痛みはあったが、自動車に押しつぶされる激痛はなく。
     恐る恐る目を開くと、僕の手を握ったまま倒れているクロの姿があった。扇のように黒い髪が広がっている。
     俺をかばってひかれたのかと一瞬背筋が冷たくなったが、そんな事はなく、「大丈夫ですか?」と立ち上がった。
    「あ、ああ。大丈夫だったけど……」
     そこで初めて僕は少しクロが怖いと思った。
     気付いたときには、車はかなり近い所に来ていた。いくら近くにいたとしても、僕の手を引いて、安全な場所に引っ張っていくのに普通の人間の速さではとうてい間に合うはずはない。まさか、彼女は本当に人ならぬ者だったのか。
    「君は、一体……」
     何か叫びながら、車の運転手が降りてくる。足を止める通行人が多くなってきた。
    「その話は……家に帰ってからします。これ以上目立たないうちに、ここから離れましょう」
     クロはそういって、早足で歩きだした。

    「実は、私は一度あなたにお会いしたことがあるのです」
     部屋に戻ると、クロは覚悟を決めたように話始めた。
    「そのとき、あなたに助けてもらったので、恩返しのつもりでここに来たのです」
    「いつ? 全然覚えてないんだけど」
    「無理もありません。その時私は人間の姿をしていませんでしたから」
     人間の姿をしていなかった? やはりクロはただの人ではなかったのだ。僕は自分が動物なり何なりを助けたことがあるか記憶を探った。
    「あのとき、あなたは私を簡単に殺せたはずです。でも、あなたは見逃してくれた。ずうずうしくも勝手に台所に住み着いた私を……」
     思い出した。ある夜、俺は台所で大きなソレを見付けたのだった。あまりの大きさと不気味さに動けずにいると、ソイツはゆうゆうとレンジの下に逃げ込んだのだった。
    「そう、私はあのとき見逃していただいたゴキブ……」
     その言葉が終わる前に、俺は手近にあった空っぽの土鍋をクロの頭に叩きつけた。
     鈍い音がして、ソレは倒れる。そして、つぶれたゴキブリの姿になった。
     全身に鳥肌がたった。俺は今まであんなのと…… 
     俺は新聞紙を何重にも重ね、ゴキブリの死体を包んでゴミ箱に投げ入れると、ツバを吐きかけた。

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    コメント

    • 面白いですね
      思わず笑ってしまいました
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    • ありがとうございます。笑ってくれて嬉しいです!
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    • ヒイィィィ!!!!(゜ロ゜ノ)ノ 怖いいいい!!!
      かつてこれほど恐ろしい作品があっただろうか? 否。ない!
      新婚さんのように…( ;´Д`)いやぁぁぁぁぁー!
      そして人間の恐ろしさも知る・・・。
      笑ったけど!確かに笑ったけど!w

      南部さんのコメントでさらに笑いましたけどねww
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    • 感想ありがとうございます~
      フッフッフッ、怖がっていただけたようで何よりです。( ̄ー ̄)ニヤリ
      >新婚さんのように…
      そこを『』でくくって強調しなかったのは私の最後の良心でした(笑)
      >そして人間の恐ろしさも知る・・・。
      ええ、げに人間とは恐ろや。されど誰が主人公を責められましょう。やはり最後は当然のオチかと……w
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    • 正当防衛かと・・・w
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    • 精神的な正当防衛ですかね……
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    • これ、男女逆だったら後日談で置き土産の話なんかできたりして・・・w
      男でも違う意味の置き土産もあるかなw
      自分で書いてて恐ろしい・・・(゚Д゚;ww
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    • >置き土産
       うわあああ! 怖い、怖いですよ そこまで考えて書いてなかったので純粋に怖いっす 。・゚・(ノ∀`)・゚・。 。

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    •  笑った笑った。笑いました。
       なにもヤらなくても・・・、とも思いましたが、当然のオチかと(笑笑)
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    • 笑っていただきありがとうございますv
      >当然のオチかと(笑笑)
      百年の恋もあっというまに翻すんですから、人間って怖いですねw
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    • こんにちは。
      爆笑してしまった私も、かなり意地悪かもしれませんー(爆爆
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    • こんにちは。
      爆笑いただきました!ありがとうございます! ふふふ、おぬしも意地悪よのう(違)
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