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シリーズ:フルーツバスケット版権小説「残り香」(紫呉×はとり)
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フルーツバスケット版権小説「残り香」(紫呉×はとり)

作者:西崎宮都

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    花とゆめ、高屋奈月著の漫画がアニメ化されたアニメ版「フルーツバスケット」の前半+妄想設定で、2004年ごろに書いてWebサイトにUPしていた作品の再掲です。草摩紫呉と草摩はとりが恋人設定、肉体関係あり。二人でいろいろやった後に紫呉が帰ってしまい、はとりは紫呉の残り香をかぎつつ、けだるい時を過ごす。


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    フルーツバスケット版権小説「残り香」(紫呉×はとり) 5513文字

     

    「今日はもう、帰らなきゃ」
     そう言って紫呉が布団を出たのは、一体どれくらい前のことだったのだろうか。
     彼が去ったのは、数秒前のことにも、数時間前のことにも思われる。彼が衣を直す音がまだ耳元に残っている気がするし、それよりなにより、彼の残り香が、確かにまだあった。体臭と交じり合い、彼自身をあらわすほどに特徴的な、煙草の香。
     家まで送ってやる、と言ったのだが、やんわりと断られた。慣れない営みで、まだ体が痛む。紫呉はそんなはとりの体を察したのだろうか。
     確かに、起き上がり、体を拭き、着替えることを考えると、かなり億劫ではある。とは言え、こうして独りで家に残されることを考えると、いくら辛かろうとも、一分一秒でも紫呉のそばにいればよかった、とはとりは思った。
     眠る気はしないが、起きる気にはならず、仰向けの姿勢のまま、両手を天井のほうに向かって伸ばす。こうしていると、この腕に誰かを抱いていたなんて、すべて嘘のように思える。しばらくそうしてみたが、掴まるものがない両手は、疲れる前に結局布団へと落ちた。はた、という乾いた音と、腕への少しの衝撃は、まるで他人事だ。
     窓から入ってくるかすかな明かりが、顔の上に舞い落ちてくる埃を照らす。そのまま目を閉じると、少し暖かく、少し湿ったような布団の感触が、どうにも気持ち悪かった。
     誰かが居た感触。このまま腕を左に伸ばすと、まだその誰かを味わえるのではないか、という気にさせられる。自分のにおいで包まれた自分だけの布団が、今日はまるで別の世界だ。想いを振り払うように目を開けてみたが、まだ朝が来ない夜の重みに、今にも押しつぶされそうだった。
    「残り香、か」
     言い聞かせるように、そしてそれを振り払うように、はとりはそっと呟いた。春は過ぎたが、まだ夏には遠く、すこしまだ冷たいものを含んだ夜風が、そっと彼の頬を撫でる。その柔らかな感触が、またもや彼に、去っていった男の存在を思い起こさせる。
     もう一度無理やり目を閉じてみたが、一つの感覚を遮断すると、触覚、そして嗅覚が、きしむ音を立てかねない勢いで活動を始める。そうなると、もう今しばらくは到底寝られそうにはない。
     はとりは静かに起き上がり、部屋の端につってあるスーツの胸元に手を伸ばした。その冷たいような生暖かいような感触に、ふと思い出す。
     今日は、雨に降られた。結構酷い雨だった。どうせすぐ近くに車を止めているのだから、と病院を出てから走ったのだが、予想以上の距離は、はとりのスーツを、そして体を、完全に濡らしてしまった。
     胸ポケットに入れていた煙草も然りである。良くここまで濡れたものだ、と小さくため息をつき、もう吸えそうにもない煙草の箱を、ゴミ箱のあるあたりに放り投げた。スーツは先に女中に渡しておくべきだっただろう。明日は着られそうにない。
     ただちょっと煙草がほしかっただけなのに、濡れた布の感触に、妙に現実に引き戻された気がした。
     かすかに窓からもれてくる明かりに照らされる、乱れた布団も、なんとか肩からぶら下がるようにまとわり着いている寝間着も。すべて、ただ、夢の象徴。暗い闇の中、自分はいつだって独りだったのだ。今更、何を求めるというのだろう。
     吸えない、と思えば、無性に吸いたくなるのが、煙草である。はとりは決してヘビースモーカーではなく、最近では思い出したように一日一、二本吸うだけだ。それでも、体と頭がニコチンに侵されていることには代わりない。確かこのあたりに、と、はとりは薄くもれてくる明かりの中で、近くの書棚を探り始めた。
    「たしか、このあたりに……」
     どこかの引き出しで、いつか見たような気がする。そんなかすかな記憶を元に物を探そうと思っても、そう見つかるものではない。本当に探す気があるのならば電気をつけて本腰入れて探せばいいものだが、そこまでするつもりはなかった。そもそも、存在をあいまいにしか覚えていないほどの古い煙草を見つけられたとしたって、どうせしけっていて、吸えやしないのだ。
     ほんの少し、時間が潰せたらいい。結局、理由はそれだけだ。煙草を探しているのではなく、ただあちらこちらの引き出しをかき混ぜているだけの自分に気がつき、はとりは唇を少しゆがめた。
     煙草は見つからなかったが、はとりはそれに似たものを見つけた。細長く、煙が出るもの。香である。
     いつ誰がこんなところに入れたのかわからないが、真っ白な和紙をまとった箱に、紫色の細い棒が行儀良く寄り集まってできた筒。薄いセロファンの包み紙を開けると、かすかな匂いが鼻をついた。
     香なんて焚いた記憶はないので、香立てを探しても無駄だろう。はとりは筒を一つ手に取り、手近なライターで火をつけ、吸殻入れに山となっていた煙草の間に立てた。
     香の香りというものは、すっと自然に空気になじむのかと思っていたはとりの考えとはまるで違い、結構な匂いが出る。匂いが出るというより、香の束は、はとりの目の前でもくもくと燃え、これは少々おかしいのではないかとはとりがなんとなく思い始めたときには、もうすでに部屋は白い煙で満たされていた。
     目の前を手ではらってもはらっても、煙はどんどん部屋を染めていく。何とかしなければ、と焦る気持ちが心のどこかにあるのに、思考が追いつかない。濃密な煙は、渦となってはとりを襲う。
     はとりはその中で何事もなかったかのようにぺたっと布団の上に倒れ、天井を眺めた。かすかに外から入ってくる風で煙が少し乱れ、広がり、また一つになる。ゆっくりと下へ下へと降りてきて、舐めるように体を包んでいく。目を閉じると本来感じられるはずのない煙の粒子が、彼の体を撫でて、過ぎ去った快感を思い起こさせた。
    「しぐれ……」
     はとりは思わず声を出す。自分にこんな感覚を味合わせてくれるのは、彼だけだから。ゆっくりと目を開けると、煙は徐々に人の形を取っていくように思えた。心なしか、着流しの男のように。そして、はとりが良く知る人物のように。
    「まさか、な」
     幻か。夢か。夜の隙間を縫って、悪魔でも舞い降りてきたというのだろうか。
     目の前を覆い尽くす香の煙をすべて取り払ったら、その姿がゆっくり見えるだろうか、とは思ったが、今もし手を動かすと、すべてが消えてしまいそうな気がした。
     どうせ夢なら、いっそ覚めるな。魂でも何でもとっていけばいい。今晩一晩でも逢えない辛さと添い寝するくらいならば、いっそそのほうが幸せだ。
    「……はーさん」
     幻が言葉をつむぐ。煙をかき分けつつ、そっとしゃがむ。
     はとりはその姿にゆっくりと手を伸ばし、触れた。
    「夢のはずなのに……」
     指を幻の頬に触れさせると、ゆったりとした生暖かさが伝わってくる。
    「触れられるよ」
     幻は、声まで似せることができるのか。
     はとりがゆっくりと動かした手は、柔らかな細い感触の中にもぐりこむ。その手はやさしくつかまれ、生暖かく濡れたなにかが指先をすべる。
    「何やってるの、はーさん」
    「紫呉……」
     はとりは近づかない幻がもどかしく、もう片方の手も伸ばした。目の前にある顔をぐっと掴み、自分の胸に押し当てる。突然の行為に紫呉はバランスを崩し、はとりの上に覆いかぶさった。
    「紫呉、行くな」
    「どうして?」
    「……そばに、いてほしいからだ」
    「どうして?」
    「幻のくせに、それ以上しつこく聞くな」
     腕の中でごそごそと動く感覚は、夢としては少々現実味がありすぎ、はとりはかたまって一つの方向に流れ出している白煙の中、ようやく現実の紫呉の存在を知った。少々冷たい夜風も流れ込んできて、頭が徐々にはっきりとしていく。
    「何を莫迦なことやってるの、はーさんは」
     紫呉はしがみつくように押さえ込んでくるはとりの手からすりぬけ、白煙の元となっている香と灰皿とを自分が入ってきた障子から外に出し、さらに障子を一杯まで開け放った。
    「僕が来なければ、煙に巻かれて死んでたよ」
     煙はほとんど外へ出たが、まだ濃い香りだけはしっかりと残り、はとりはまだ夢の世界に居るような気がした。布団をはたき、なんとか香りまでも外に出そうとしている紫呉の白い首元に、はとりはそっと手を伸ばす。

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    作者紹介

    • 西崎宮都
    • 作品投稿数:13  累計獲得星数:28
    • 西崎宮都(にしざきみやと)。ボーイフレンド(仮)など版権小説中心に書いています。特に西園寺生徒会長(西園寺蓮)×赤主人公のR-18(官能小説)。読みたいシチュエーション、読みたいカップリングなどコメントで募集。

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