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シリーズ:ストロベリーライン・フォーエヴァー
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ストロベリーライン・フォーエヴァー

作者:不知詠人

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    宮城県亘理郡山元町という町を舞台にした幻想短編。


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    ストロベリーライン・フォーエヴァー 24345文字

     

     バイクごと飛び込み自殺をするのに良さそうな海岸を探していたら、ずいぶん北の方まで来てしまった。途中で警察が通行止めにしている海岸沿いの道路があったので内陸に大回りし、また海辺の道へ戻った。
     どうせなら何かの映画で見たように、思いっきり宙を飛んで海に飛び込んでやろうと美咲は思っていた。人生最後の瞬間ぐらい、思いっきりカッコつけて思い通りにやったっていいだろうと。
     やがて漁港らしい場所が目に入った。妙にぼろい感じの、いかにも田舎の港という感じだったが、人気がない分邪魔も入らないだろう、と美咲は思った。港の入口で海の方を見渡すと長いコンクリートの消波堤が結構長く伸びているのが見えた。
    「もう、ここでいいや」
     美咲はそうつぶやいてヘルメットを地面に置き、ポニーテールの長い髪をほどいてアクセルを思いっきり吹かした。そのまま海の方へ走り桟橋を通り抜け、消波堤の上に乗り上げた時、後ろに停泊している船の陰から誰かが飛び出してきて何かを美咲に向けて叫んだ。だが美咲はかまわず細い消波堤の上をバイクで走りどんどんスピードを上げた。
     昔から他人と仲間になるのが下手だった。むき出しの顔に潮風が当たるのを感じながら美咲は思った。それは社会に出ても変わらなかった。常に周りから「変わったヤツ」扱いされながら、それでもがんばって来たつもりだった。
     会社の仕事も自分なりに頑張った。二年目からは後輩の仕事の面倒も一生懸命見た。だが美咲が必死の思いで集めていた新規顧客開拓の情報を、会社のイントラネットから先輩社員たちに盗まれていたのに気づいた時から、美咲の会社での居場所はなくなった。
     美咲あてに送られて来ていた顧客からのメールや、美咲が後輩たちの教えてやるために送っていたメールの内容を、その先輩連中がのぞき見して自分の手柄にしていたのだ。確かに会社のイントラネットなら、メールなどの内容を会社が無断でチェックする事は許されている。だが、それは社員の不正を防ぐとか私的な使用を監視するとか、そういう目的ならば、のはずだ。
     それを知った美咲は猛然と部長に抗議したが、部長は全く取り合ってくれず逆に美咲が周りから嘘つき呼ばわりされるようになった。
     何の事はない、部長もグルだったのだと気づいた時には、あれほど面倒を見てあげた後輩たちも徐々に美咲から離れて行った。お盆休みに入る直前、美咲は部長をぶん殴って目出度く会社をクビになった。
     スロットルを限界まで吹かし、目の前に近づいて来る消波堤の終わりとその向こうに広がる海面を見つめながら、美咲は心の中でこう恨み事を言っていた。
     人間努力すれば必ず報われる?ふざけんじゃねえよ、誰だ?そんな事世間に広めた奴は?この世の中なんてしょせん、真面目に頑張った奴が馬鹿を見るんだ。他人の頑張りの成果を横取りするのが上手い奴だけが得するように出来んのがこの世間だろ。チキショウ、あたしにそんなきれい事教えて来た連中全員、あの世に行っても恨んでやる!
     やがてバイクの前輪が宙に浮き、美咲の167センチの長身はすうっと重力から一瞬解放された。美咲はサドルから体が離れてもバイクのハンドルを握りしめ続けた。こうすればバイクの車体が上から覆いかぶさった状態で水中に落下し、確実に死ねるからだ。
     もう夏とは言え飛び込んだ瞬間の海の水は冷たかった。予定通りバイクの車体にのしかかられる格好で美咲の体は海面下に沈んだ。青い水面の向うに、擦りガラス越しに見るような夏の陽光が見えていた。溺死って、意外と苦しくないんだな。そんな事を考えた数秒後、美咲は意識を失くしていくのをぼんやりと感じながら目を閉じた。

     ここは天国なんだろうか?最初に美咲が思ったのはそういう疑問だった。まあ地獄に落ちる可能性がゼロの人間だと自分を思うほど美咲は自信家ではないが、天国にしてはあまりイメージ通りの場所とは言い難かった。
     美咲は夏用の薄い布団をはねのけて上半身を起こした。ライダースーツはいつの間にか脱がされて着物を着せられていた。古臭いが朝顔の模様の浴衣で、遺体に着せる白装束というわけではない。髪はぐっしょり濡れたままで潮臭い匂いがしてべたついた感じだった。どうやら予定通り死ねずにどこかの海岸に打ち上げられてしまったらしい。
     寝かされていたのは八畳の日本間の部屋だった。天井から家庭用の蛍光灯がぶら下がっていてタンスが一つ部屋の隅にあった。部屋の仕切りは襖で、何となくクラシックな造りの田舎風の家らしい。
     自分の今の状況がつかめずにぼんやりとしていると、襖がすっと数センチほど開き、小さな女の子の顔が一部だけ見えた。反射的に見つめ返す美咲の視線に向こうも気づいたようで、ぱっちりした目だけをのぞかせたその女の子はあわてて襖をぱたんと閉め、バタバタと走り去って行く音が響いた。
     それから今度は大人の物らしい足音が、これもバタバタと気ぜわしく響いて来て襖ががらっと大きく開いた。そこには美咲よりほんの少し年上らしい20代後半ぐらいのショートカットの女性がいて、美咲が起き上がっているのを見ると畳の上を這うようにして美咲の傍まで近づいて来た。
    「よかった!気がついたんですね。どこか痛い所とか苦しい所とかあります?」
     美咲は無言でゆっくり首を横に振った。その女性は心底ほっとした様子でにっこり笑顔を見せた。
    「センセー……」
     そうか細い声が襖の向こうから聞こえて来た。さっきの女の子が襖に体の右半分を隠すようにしてこっちの様子をうかがっていた。
    「センセー。おねえちゃん、大丈夫なの?」
     女性は振り返って優しそうな声で女の子に言った。
    「うん、大丈夫みたいよ。麻里ちゃんもこっちにいらっしゃい」
     すると麻里と呼ばれた6,7歳ぐらいらしい女の子は、ぱっちりとした目で美咲の顔を見つめながら小走りに先生と呼ばれた女性に近づきその背中にしがみつくような格好で彼女の頭の後ろからちらちらと顔を出して美咲を見つめ続けた。
    「あの……」
     美咲はこめかみを右の指でとんとんと叩いて意識をはっきりさせようとしながら、その女性に訊いた。
    「今その子が先生って言ってたけど、あんた医者?それとも学校の先生?」
     その女性は一瞬きょとんとした表情を浮かべ、そしてあはは、と笑いながら答えた。
    「いえ、あたしは海岸の近くにある老人ホームの介護福祉士よ。一応ケアマネージャーの資格を持ってて施設を仕切っているもんだから、ホームのおばあちゃん達が『先生』なんて呼ぶようになっちゃてね。そしたらご近所の人たちからまでそう呼ばれるようになっただけ。医者とか教師とか、そんな御大層なもんじゃありません」
     麻里という女の子は相変わらず、先生と呼ぶ女性の背中に貼りついて頭だけをちらちらと先生の肩越しにのぞかせながら何も言わないでいる。それに気づいたその女性が言った。
    「こら、麻里ちゃん。ちゃんとご挨拶しなさい。ごめんなさいね。田舎町だから外から来た人が珍しくてしょうがないみたい。あ、あたしは吉川理沙。みんな吉川先生って呼ぶけどね。あなたの名前、聞かせてもらえるかしら?」
    「ミサキ……藤代美咲……」
     素っ気なく美咲は言葉を返す。吉川先生は「えいっ!」と声を発して麻里ちゃんの体を抱えて自分の前に引っ張り出し、美咲の前に立たせた。
    「この子は前原麻里ちゃん。いやもう、びっくりしたわ。この子があなたを海岸で見つけて知らせてくれたのよ」
    「どうして……どうしてそんな余計な事したんだ?!」
     不意に美咲が大声を上げた。
    「なんで、そのままほっといてくれなかったのよ?なんで、そのまま死なせてくれなかった……」
     麻里と呼ばれた女の子は「ヒッ」と怯えた声をあげて吉川の背中にしがみついた。吉川もハッとした表情で美咲の顔を見つめた。そして何かを悟ったように、小さくうなずいた。思わずどなり散らして荒い息をしている美咲の両肩に手をかけ、吉川は子供をあやすような優しい口調で言った。
    「さあ、もう少し眠った方がいいわ」
     吉川に肩を押されて布団に倒れこんだ美咲は、そのまま床に吸い込まれるような感覚を覚え、途端にまた深い眠りに落ちた。
     再び目が覚めた時にはもう夕暮れ時になっていた。布団の周りには誰もいなかった。布団をはねのけると、美咲は自分が薄い紺色の浴衣に着替えさせてもらっているのに気付いた。

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