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シリーズ:電網自衛隊
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電網自衛隊

作者:不知詠人

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    もし首都圏が大規模なサイバー攻撃にさらされたら?
    自衛隊のサイバー戦部隊は国民を守れるのか?


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    電網自衛隊 23937文字

     

    第1章 ログイン

     昇二が突き付けた銃口を見てその太った中年のヤクザはへなへなと床に尻もちをつくように、崩れ落ちるように座り込んだ。そして裏返った声で必死に命乞いを始めた。
    「ま、待ってくれ。俺はただ、金もらって頼まれただけなんだ。それをパソコンに入れて、そんで24時間インターネットに繋ぎっぱなしにしとけば、それだけで30万円もくれるって言われて……」
     そこは都内のありふれたマンションの一室だった。男の一人暮らしにふさわしい、散らかった臭い部屋。その部屋のデスクトップパソコンを分解して中からマザーボードを引き出していた新入りの若い相棒は、ちらりと視線を向けた昇二にうなずきながら言った。
    「確かにそのようですね。これは普通の市販品だ。こいつは『踏み台』ですよ」
     それを聞いていた中年ヤクザはほっと安心した様子を見せた。
    「だ、だろ?だから、な?いや、なんか分からねえけど、俺も後悔してるよ」
    「そうか、後悔しているか?」
     昇二はサイレンサーの付いた銃口を構えたまま、氷のように冷やかな口調で問いかけた。
    「じゃあ、反省もしなくちゃな」
     昇二の声に、男は必死で愛想笑いを作りながら大げさに何度もうなずいた。
    「ああ、分かってる、分かってる。反省するよ」
    「そうだ、反省するんだ。ただし、あの世でな」
     次の瞬間、銃口がプシュッと鈍い音を立て、男の眉間にポツンと丸い赤い穴が開いた。そのまま男の体はゆっくり後ろ向きに床に倒れ込んで、数秒ピクピクした後ぐったりと動かなくなった。
     昇二が念のため男の首筋の頸動脈に手を触れて死んでいるのを確かめている間、若い相棒はパソコンからはずしたマザーボードをリュックにしまい込みながら、ヒューと小さく口笛を吹いた。強がってはいるが、目の前で人が殺された場面を見たのは初めてのようで、手が小刻みにブルブルと震えている。
     昇二はどうもその相棒としっくり行かない気がしていた。二十歳そこそこの今時の若者らしく、耳がすっぽり隠れる長い髪を金髪に染め、両方の耳にピアスをしている。体つきも細身で締りがなく、いちいち動作や話し方がチャラチャラしている感じで癇に障る。
     まだ二十代後半とは言え、鍛え上げた筋肉質の長身に髪を短く刈り上げた昇二には、どうにも一緒にいて訳もなくイライラさせられる相手だった。だが「令嬢」の推薦だけあって、情報処理技術の腕は超一流だった。ハッキング技術のコンテストで何度も全国大会まで行ったというのは嘘ではなさそうだ。
     山下竜というその相棒は一生懸命に粋がって見せようと、真っ青な顔で軽口を叩いた。
    「へえ、話には聞いていたけど、ほんとに平然と殺しちゃうんですね、新田さんて。俺初めて見たすよ」
    「現場では名前で呼ぶなと言っただろう。誰かに聞かれていないという保証はないんだ。盗聴器の可能性も含めてな」
    「あ、いけね。すいません」
    「よし、そろそろ撤収だ。ブツはみんな持ったな?」
     竜がうなずいたのを見て、昇二は薄い皮の手袋を両手にはめ、バッグから丸めた一枚の和紙を取り出し、広げて部屋の壁にあてナイフをその上から突き刺した。広がった細長い和紙の表面には墨で大きくこう書いてあった。
    「電網自衛隊」
     竜が目を丸くして昇二に聞く。
    「なんすか。そりゃ?」
     昇二はそれに答えずに黙ってマンションのドアを指差した。
     翌日の早朝、防衛省の高官はその日の各社朝刊を一瞥するや、そのうちの一紙をわしづかみにしてデスクに叩きつけた。コーヒーをカップについでいた女性職員がビクっと見をすくめて、おそるおそる尋ねる。
    「あの、どうかなさいましたか?」
     高官は返事をせず紙面を顎でしゃくって見せた。彼女がのぞきこむとそこには社会面トップで昨夜の事件の記事が載っていた。見出しには「電網自衛隊、またも都内で殺人」とあった。
     高官はカップをわしづかみにしてごくりと一口コーヒーを飲みこんで怒鳴った。
    「くそ!殺人狂、テロリストが、自衛隊の名を騙るとは、おこがましいにも程がある!」
     その日の夕刻、日が沈んだ直後に、昇二と竜は長野県の高原にある豪勢なお屋敷風の山荘に到着していた。あたりに人家がほとんど見えない、山の中の隠れ家と言った風情の建物だが、まるでおとぎ話に出てくるような西洋風の巨大な家屋だった。
     尾行の可能性を排除するため何度も逆方向に進路を変えて車を走らせ、一日がかりでたどり着いたのだった。昇二がクラクションを二度短く鳴らすと、白髪の執事が高さ3メートルはある石塀の門を開きにやって来た。屋敷の敷地に車を乗り入れ、玄関の前で二人が車から降りると老執事が小走りに追いついて来て、玄関のドアを開けてくれた。
    「お帰りなさいませ」
     老執事は深々と頭を下げながら二人に中に入るよう促す。
    「すぐに熱い紅茶をご用意いたします。まだ初秋とはいえ、この辺りはもう夜は冷えますからね。お風邪を召しませんように」
     二階の客間に上がって行く間、竜は無遠慮に屋敷のあちこちをきょろきょろ見回していた。この相棒はこの屋敷に来るのは初めてだったな、と昇二は思い出しながら、階段を上がり重厚な木のドアをノックした。
    「どうぞ」
     中から若い女の声がして、二人は部屋の中に入った。部屋の真ん中のクラシックなテーブルに、白いドレス風のワンピースを着た若い、というよりまだ少女と言っていいような女性が腰かけていた。その隣には既に先客があった。昇二と同じような、鍛え上げた体つきの同年代の男が座って、なんとなく居心地の悪そうな雰囲気を漂わせていた。
     昇二は片手を軽く上げてその男にあいさつし、向かい側の椅子に座って竜を自分の隣に座らせた。女の方が先に口を開いた。
    「それで、今回はいかがでした?」
     鈴を転がすような声とは、こういうのを言うのだろう。昇二も竜も彼女の本名は知らない。「令嬢」とだけ呼ぶのが彼らの組織の決まりだ。話しぶりといい、動作の上品さといい、確かにどこかの大金持ちの名家のご令嬢なのだろう。昇二はひとつ深呼吸をして報告を始めた。
    「半分は当たりでした。ただ、『ボット』でしたが」
     横から竜が相変わらずチャラチャラした口調で補足する。
    「ありゃ踏み台でしたよ。まあ、本人が分かっててやってた分、悪質っちゃあ、悪質ですけどね」
    「あ、あの、すみません」
     令嬢が少し困ったような微笑を浮かべながら言った。
    「申し訳ありませんが、私はそういう専門用語には疎くて……」
     昇二は竜に目配せして説明するよう促した。素人に分かりやすく説明するのは竜の方が上手い。
    「まあ簡単に言うと、パソコンを外から自由にコントロールできるようになっていた、って事です。そういう機能を持ったソフトウェアの事を『ボット』って呼ぶわけです。そんで、乗っ取られたパソコンがいっぱいネット上でつながって、一種のパソコンネットワーク作るんですけど、これを『ボットネット』とか『ゾンビパソコン』なんて呼んだりもしますね。このボットネットがインターネットに接続されている他のパソコンに潜り込んでいろいろ悪さをするわけです。ここまでは分かります?」
    「はい!竜君の説明はいつも分かりやすいわ」
    「へへ、それほどでも」
     そこへさっきの老執事が人数分の紅茶を運んで来て各人のテーブルに置き始めた。昇二が構わない、という合図でうなずいたので、竜は説明を続けた。
    「そのボットに入りこまれたパソコンなりサーバーの事を踏み台って言うんですよ。普通は持ち主も気づかない間に入り込まれるんで、そのパソコンの持ち主の人間様の事も踏み台って呼ぶ事があるんすけどね。今回のやつは、金もらってわざと自分のパソコンに、マルウェア……あ、これはそういう悪さをするために作られたソフトの事すけどね……そのマルウェアをインストールしてた、まあそういう事です」
    「まあ。お金と引き換えに?では何億円ぐらいだったのでしょう?」
     昇二が苦笑して答えた。やはり筋金入りのお嬢様らしい。
    「30万円、と本人は言ってましたが」
    「は?たったの30万円。そのためにそんな怪しい話を引き受ける方が世間にはいらっしゃるのですか?」
    「そいつはヤクザでした。ただ、普通の一般市民でもその、たった30万円に目がくらむ人間はゴマンといますよ」

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