upppiは縦読みコミック(タテコミ)・イラスト・小説が無料で楽しめるサービスです!

ようこそ!ゲストさん
シリーズ:異本 殺生石
閲覧数の合計:124

作品を編集する

  • シリーズタイトル・ジャンルの修正
  • この章を改訂する
  • この章を削除する
  • シリーズに作品を追加する
  • 表紙画像の変更

異本 殺生石

作者:不知詠人

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
    • タグ:
  • 編集協力者:

    原発事故に揺れる東京に突如出現したタイムマシン。
    そこから現れたのは未来人の少女。
    22世紀の遺伝病から日本人を救うために「セッショウセキ」を探しに来たと言う。
    主人公・尾崎陽菜と高校の悪友・玄野は彼女を救うため時間旅行に同行するが……

    九尾の狐伝説をモチーフにしたタイムトラベルSF。


    登録ユーザー星:1 だれでも星:0 閲覧数:124

    異本 殺生石 53448文字

     

     何かで書いてあるわけではなかった。濡れタオルでいくらこすっても落ちないから間違いない。たぶん入れ墨、いや西洋風のタトゥーという物なのだろう。鮮やかな大きな緋色の文字が二つ、少女の右の二の腕に刻み込まれていた。そこには「FD」という文字が、少女の異常に白い肌と対比を成すかのようにくっきりと浮かび上がっていた。
     少女が目をさます気配がないので、陽菜も制服からジーンズとスポーツシャツに着替えて一階へ降りた。玄野は床に胡坐をかいて座り込んでテレビのニュースを見ていた。画面の中ではナンタラ長官とかの政府の偉い人がマイクに向かってまくし立てていた。
    「原発事故は全く心配のない状況でありまして、放射能の漏出はきわめてわずかな、全く健康に影響のないレベルに留まっております。国民のみなさんは、どうか根拠のない情報に惑わされる事のないよう、落ち着いて……」
     なにか、あの震災以来ずっと同じようなセリフを聞かされているような気がする。陽菜がリモコンでテレビを消すと、玄野ははっと振り返った。
    「あ、悪い。気づかなかった。終わったのか?」
    「いや別にいいよ。あの子死んだように寝てる。それよりあんた、ニュースなんか見て面白い?あたしゃ耳にタコができたような気がする」
    「ああ、全然進展しないもんな。原発の作業員も全員退避してから長いこと経ってるし」
     それから陽菜はあの少女の腕にあった「FD」という緋文字の事を玄野に話してみた。優等生の玄野なら何か分かるかと思ったからだ。しかし彼も首をひねるばかりだった。
    「ううん……普通FDって言ったらパソコンのフロッピーディスクの略だけど。でも今じゃフロッピーなんて使ってる奴いないだろ?」
    「そうでもないよ」
     突然リビングの入り口から声がした。その声を聞いた途端、陽菜の顔がパアッと明るくなり、猫のように陽菜はその声の主に飛びついた。
    「兄さん!久しぶり!にゃああん」
    「こら、年頃の娘が男に抱きつくな!」
    「いいじゃあん、実の兄妹なんだから」
    「そういう問題か!こら、だからそんなにくっつくな」
    「いやあ、ほら、陽菜のここも成長したってところをさ、実感してもらおうと思ってさ」
     直後に兄のゲンコツが陽菜の頭のてっぺんに炸裂し、陽菜は名残惜しそうなふくれっ面でその人物から離れて、床に座り込んだ。
    「お久しぶりです。明雄さん」
     玄野がそう言ってその人物に頭を下げる。彼、陽菜の兄である明雄はスーツの上着を脱ぎネクタイを緩めながら言った。
    「まったく。親父とお袋が泊りがけで外出だっていうから様子を見に来てみれば、陽菜、おまえは幼稚園児か?その調子で玄野君を手籠にしなかっただろうな?」
     陽菜には9歳も年が離れた兄がいた。同じ親からなぜこうも出来の違う子供が生まれるのだろうと陽菜自身が長年疑問に思っている程良くできた兄だった。小さいころから学業抜群、東京大学にストレートで合格し、これまたストレートで一番上のレベルの国家公務員採用試験に合格、今では経済産業省に勤務している超エリート官僚なのだ。
    「ところで、さっき、そうでもないって言いましたね。明雄さん。いまどきフロッピーなんて骨董品どこで使ってるんです?」
     ソファに座った明雄に玄野が訊いた。明雄はいたずらっぽく微笑んで答えた。
    「この日本国の中枢さ。霞が関の官庁じゃ、まだフロッピーディスクのパソコンを使っている役所は多いよ」
    「ええ!ほんとですか?」
    「ああ。役所は予算がきびしいからね。僕のオフィスで使っているパソコンも最低10年前のモデルだよ。それでフロッピーがどうかしたのかい?」
     ここで陽菜と玄野は顔を見合わせて、しばし考え込んだ。あの不思議な少女の事を話すべきだろうか?いや、そもそも話して信じてもらえるだろうか?明雄はそんな二人の様子を怪訝そうに見ていた。
     その気まずい沈黙を破ったのは三人のうちの誰でもなかった。二階からリビングへ通じる階段の途中からその声は低く静かに響いた。
    「あたしの腕のマークを見たのね?」
     そこには階段の手すりに寄りかかるようにして、あの少女がまだ少し辛そうな様子で立っていた。陽菜は急いで立ち上がり彼女のそばに駆け寄って肩を支えた。少女はまだ少しふらつく足取りで階段を降り、崩れ落ちるようにソファに身を沈めた。それから彼女は、あらためて三人の顔を見まわしながら言った。
    「あれはFD症候群という病気の印」
     陽菜は昭雄の目をのぞきこんだ。だが昭雄もそんな病気の名前は知らないように、小さく小刻みに首を横に振る。それを見た少女は陽菜たちが考えている事を察した様子で言葉を続けた。
    「あなたたちが知っているはずはないわ。これは22世紀の遺伝病だから」
    「へ?今22世紀って言った?ちょ、ちょっと待ってよ。じゃあ、あんたは……」
     そこで絶句した陽菜の後を引き取るように金髪の少女は言った。
    「そう。あたしは未来人。あなたたちから見ればね。あたしは2101年からタイムマシンで逃げて来たの、この時代へ」
     その異様に白い肌の金髪の少女が語った未来はこうだった。彼女が生まれたのは2085年。その頃日本では「FD症候群」と呼ばれる謎の遺伝病が発生し始めていて、彼女も生まれつきその病気を発症していた。
     その時代の日本政府はFD症候群が広まるのを恐れて発病者を隔離し、治療法を探すためと言って彼女の様なFD症候群患者を体のいい人体実験のモルモットにしていた。少女はちょうどそのころ実用化されたタイムマシンを他の二人の収容所の仲間とともに盗み出し、過去へ逃亡したのだと言った。
    「ひでえ話だな……」
     玄野が顔をしかめながら言った。
    「でも、なんで過去へ、それもこの時代へ逃げて来たんだい?」
     玄野の問いに少女は少しためらった後、覚悟を決めたように答えた。
    「あたしたちFD症候群の発病者を救う方法が一つだけ、過去の世界にあるの。セッショウセキという物質というか物体が、この時代にあると知って、それで。その物質があればFD症候群の発病者を治す事ができるそうなの」
    「セッショウセキ?」
     陽菜も玄野も昭雄も異口同音につぶやいた。だがそんな者は誰も聞いた事もなかった。昭雄に言われて陽菜は自分の部屋からノートパソコンをリビングに持ってきて光ファイバーケーブルに繋いで昭雄に手渡した。昭雄は十分以上あちこちのサイトを検索して回ったが、そんな言葉は一件もヒットしなかった。
    「やはり、この時代よりもっと過去に行かなければいけなかったみたいね」
     残念そうに溜息をつく少女に昭雄がためらいがちに言う。
    「悪いが、僕にはどうも君の話が信じられないんだが。まあ、君を嘘つき呼ばわりするつもりはないんだが……」
    「そりゃそうでしょうね」
     少女はむしろ当然という風に反応した。
    「そちらの二人はさっき見たはずだけど、あたしが乗って来たタイムマシンを見せてあげる。ちょっと庭に出られるかしら?」
     リビングのガラス戸を開けてみんなで庭に出る。あの少女が手首に巻いたブレスレットのような装置をいじると、陽菜の家の上空にさっきの飛行物体が何の前触れもなしに突然出現した。
     銀白色の流線形の細長いボディは近くで見ると意外と大きく、後ろには9本の細長い突起が突き出ている。これには昭雄もしばらくポカンと口を半開きにしていた。少女がまたブレスレットをいじるとそれは再び虚空に溶け込むようにスッと姿を消した。
    「空間ステルス機能と言って、時空間の隙間みたいな所に隠しているのよ。どう、これで信じてもらえる?」
     昭雄は無言でうなずいた。陽菜と玄野はあらためて驚いていた。もう百年もすれば、あんなすごい機械が発明されるようになるのか、と。
     一旦全員リビングに戻り、今後の事を話し合う事にした。陽菜としては行きがかり上とは言え、このままその少女を放り出すわけにはいかないような気になっていた。この辺が周りからアネゴ肌ともお節介とも言われるゆえんなのだが。陽菜はふと気がついて少女に尋ねた。
    「あ、今頃思い出した。あんた、名前は何て言うの?あ、あたしは陽菜。オサキ、ハルナ」
     だが返って来た言葉は意外な物だった。
    「あたしには名前と言う物はないの。収容所ではFD3025号と呼ばれていたわ。あたしみたいに生まれつきのFD症候群患者には名前は与えられない」

    ←前のページ 現在 2/16 ページ 次のページ→

    1ページ目に戻る
    ▤ 目次ページに戻る


    お気に入りリストに追加 この作品を応援する

    応援ボタンを押す事で作品の★が増え、作者に「イイね!」を伝える事ができます。

    コメント

    作者紹介

    この作者の人気作品

    小説 の人気作品

    続きを見る