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シリーズ:ボーカロイドお雪
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ボーカロイドお雪

作者:不知詠人

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    佐倉かすみ。声を失くした少女。
    お雪。人の魂が宿ったボーカロイド。
    二人が出会った時、ある秘密の計画が始まった。


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    ボーカロイドお雪 51066文字

     

    プロローグ 歌えないカナリア

     あたしは歌を歌えないカナリアになってしまった。
     朝洗面所で鏡に映る自分を見るたびにそう思い知らされる。別に歌は忘れたわけじゃない。
     なくしてしまった、いや奪われてしまったのだ。自分の喉に横に一文字に走る傷跡が嫌でもその事を思い出させる。
    「今日は学校行くの?出席だけはしておかないと卒業できないわよ」
     お母さんがいつものしかめ面でそう言う。あたしはいつも肌身離さず持っている掌サイズのPDAのキーを叩いて、横を向いたまま画面をお母さんの顔の前に突き出した。
    『行くよ』
     あたしの喉の声帯は完全につぶれていて声を出す事が出来ない。アーとかウーとか、そういう音さえ出せない。ただヒューヒューと風が節穴を通る時のような音がかろうじて出せるくらいだ。
     あたしは二階の自分の部屋に戻って学校の制服に着替え、階段をとんとんと降りて一応ダイニングルームへ行く。用意してあったコーヒーだけを素早く飲み干すと「行ってきます」の合図としてテーブルを三回拳でコンコンコンと叩く。
    「あら、またコーヒーだけ?たまにはちゃんと朝ご飯食べなさい」
     母の小言を背中で聞き流しながら、あたしは頭の横まで上げた右手をひらひら振ってそのまま玄関から逃げるように外へ出た。
     一人娘が声を失った事に、両親はあまり同情的ではない。そりゃ、気を遣ってくれてはいるけど、どこか身から出た錆だという態度が透けて見える。確かにその通りだから、あたしはなんとなく自分の家の居心地が悪い。
     もう七月だけどあたしの首には薄い水色のスカーフが巻いてある。普通なら校則違反だけど傷跡を隠すためだから学校は特別に許可している。
     高校に入学した直後にあたしは永遠に声を失い、普通の女の子が望む青春だとか幸せな将来だとか、そういう物には無縁の存在になってしまった。きっとまともな恋愛だって無理だろう。話す事が出来ない女の子を本気で好きになってくれる男の子なんてこの世にいるもんか。
     そう思ったら途端に学校に行くのが億劫になってきた。あたしはいつもの様に制服のままサボる事に決めた。となれば、行先はあそこしかない。
     観光客も滅多に来ない小さな地方都市では、平日に昼間から制服の女子高生がうろつける繁華街などない。すぐに警官に呼び止められてゲームオーバーだ。だからあたしはいつもの様に、町の真ん中を流れる大きな川の横にある公園へ向かった。
     住宅街から離れているから人影はまばら。小さな子供を連れたお母さん連もここまでは滅多に来ない。大きな屋根のついた休憩所にはベンチが並んでいて、雨の日でも長い時間ぼっとしていられる。あたしのお気に入りの隠れ家というわけ。
     ま、あたしが学校さぼった事はすぐに学校からの電話で親には知れるだろうけど、お父さんもお母さんもしつこくは何も言わない。半分あきらめているのだろう。
     その日は天気が良かったので、あたしは芝生の上に腰を下ろして、ぼんやりと遠くの川面を眺めていた。この町の夏は好きだ。そんなに暑くならないから。あたしは鞄から音叉を取り出して近くの石を叩いて、そのキーンという響きに耳を傾ける。
     あたしは中学時代からギターをやっている。いわゆるフォークギターというタイプで、弦が金属で出来ている。その弦を調律する時に使うのがこの音叉だ。でもあの事故以来、ギターには触れていない。
     声は出なくてもギターを弾くのに問題はないけれど、ギターに合わせて自分で歌う、いわゆる弾き語りが出来るというのがあたしの密かな自慢だったから、ギターだけを弾く気にはなれない。
     高校に入ったら真っ先に軽音楽部に入部するつもりだった。うちの高校の軽音部はレベルは高くはないが、こんな田舎ではそれなりに一目置かれている。あたしはそこでボーカルをやるつもりだった。
     それもかなわぬ夢になった以上、もちろん軽音部には入らなかった。高校に入ったらお父さんにねだって買ってもらうつもりだったエレキギターも、話をしないままになっている。
     何時間そうしていたのだろう。ふと気がつくと、もう日が頭の真上に来ていた。腕時計を見るともう十二時過ぎ。
     あたしは当然携帯電話を持っていない。だから腕時計をして腕時計で時間を見る。学校の同級生の大半は携帯の画面で時間を見る。だから腕時計をしていない子の方が多い。こんな所でもあたしと普通の女の子たちの行動は微妙にずれてきている。
     これから年を取っていくごとに、このずれはますます大きく、多くなっていくのだろうか。あたしはそれが怖い。
     十二時十分、あの人がやって来た。あたしより二つか三つ年上だろうと思う。ちょっと背の高い、ほっそりした体つきの男の子だ。いや、もし三つ上なら大学生か社会人だから「男の子」呼ばわりはまずいかな。
     耳が隠れる程度に伸ばした髪がちょっとぼさぼさしているけど、いつもにこやかな顔をして、とても感じがいい。
     でも話をした事は一度もない。声をかけた事もかけられた事もない。名前も住所も、学校あるいは職場も、何もあの人の事は知らない。なのに、なぜかあの人に会いたくなって、ついこの公園に来てしまう。
     あの人は多分どこかでお昼を食べた後、午後の授業か仕事が始まるまでの休み時間をここで過ごしているのだろう。いつもジーンズとラフなシャツや上着だから、社会人だとしたら工場の工員さんとかなんだろうか。
     あの人はいつも今あたしがいる場所から一番遠い川べりの手すりに寄りかかって、遠い目をして空を眺めている。あたしは遠くからあの人の姿を見るのがとても好きだった。
     やがて一時少し前になってあの人は公園を去って行った。夕方にもここへ来る事があるのはチェック済み。
     そこまでやっているのなら声でもかければいいじゃない?と言われるかもしれないけど、それは普通の女の子の話。
     あたしにはまず、声をかけるという事自体が不可能だ。あたしはもう一生声が出せない体なのだから。仮に気付いてくれたとしても彼と会話すらする事もできない。
     そんな女の子と付き合ってくれる男性がこの世にいるだろうか?まして、本気で好きになってくれる人がいるだろうか?だから、あたしはいつも遠くから彼を見ているだけ。それで満足するしかない、それがあたしの運命。
     少し暑くなってきたので、あたしは屋根のあるベンチコーナーへ移動して途中のコンビニで調達してあったおにぎりとペットボトルのお茶でお昼ご飯にする。お腹が膨れたら眠くなってきた。
     辺りを見回したがもう公園にはあたし以外誰もいない。行儀悪くベンチの上に寝そべってひと眠りする事に決めた。鞄を枕にして横向きに寝そべり、一応スカートの上にハンカチを広げて置く。
     さすがに真っ昼間から女子高生を襲ってくるやつもいないだろうが。いたとしても、それはそれでいい。もう別にどうなってもいい。それでこの悪夢のような毎日の何かが変わってくれるのなら……

     夜の薄闇の中、ブゥオーとオートバイのエンジンが爆音を上げる。運転しているのは中学から同じ高校に入った先輩だ。その後部座席に乗っているあたしを、あたしが見ている。先輩は詰襟の制服の上着を、あたしは紺色の長袖のセーラー服を着ている。だから今は春だ。
     先輩の背中にしがみついてあたしはキャーキャー騒いでいる。先輩はバイクを走らせながら時々わざと右に左にグラっと揺らして見せる。あたしは一層ギュッと先輩の背中にしがみついて大げさに嬌声をあげている。
     バイクが山沿いの狭い道へ進んでいく。ああ、そっちへ行っちゃ駄目。でもその声は二人には聞こえない。
     分かっている。これは夢だ。あたしの見ている夢だ。だから分かっていても止める事もどうする事も出来ない。
     やがてバイクの上の二人は、あの悪魔に遭遇する。道の両端の木に結ばれ、道に横に張られたロープに。ヘルメットはかぶっていたが、顔の前は二人ともむき出しだった。
     先輩はバイクのスピードを上げるために前かがみの姿勢になっていたから、かろうじて直撃は避けられた。後部座席で浮かれて上体を起こしていたあたしはそのロープにまともにぶつかった。
     ロープは狙い澄ましたかのようにあたしの喉を直撃した。そのままあたしの体はバイクから後ろへ放り出され、地面に叩きつけられた。喉が焼けるように痛んだ。先輩はバイクごと少し前方で転倒したが、それほど激しい勢いではなかったようだ。

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    コメント

    • 最期まで一気に読ませていただきました。
      感動しました! 
      雪子ちゃんが亡くなっていることがわかったシーンでは思わずほろりと来ました。
      • 1 fav
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