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シリーズ:【BL】いまでも初恋
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【BL】いまでも初恋

作者:瀬根てい

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    病院で家族に看取られようとしている老人の元に、黒い服を纏った男が現れた。彼は八十年前老人に助けられた魔族だった。
    老人は魔族に連れられて、若さと命を与えられ、戸惑いながらも新たな人生をマイペースに歩んでいく。

    ※このお話はJ庭35で無料配布しました。


    登録ユーザー星:8 だれでも星:13 閲覧数:1793

    【BL】いまでも初恋 35607文字

     

     見上げると、自分の背丈の何倍もある竹が空を覆っていた。細い葉の間から見える青が緑に映える。
     寅三(とらぞう)は額に落ちる汗を拭うと、重みのある籠を背負い直し足を踏み込んだ。急斜面を滑り下り、横眼で不自然に膨らんだ地面と緑を見つけ減速する。膨らんだ笹の葉をつま先でどかすと、地面から僅かに竹の子が頭を出す。笹の葉に隠れているから見落とすところだった。
     一つ見つけると、あちこちに、登った時には気づかなかったものが見えてくる。
    「やいやい、あっちもあらあ」
     背中の重みと、目の前の宝とを比べ、寅三は嬉しげに嘆息した。
     籠を一度置いて掘ってから後で回収しに来るべきか、掘った竹の子を持って一度下りるべきか。ううむ、と唸る声に腹の虫が重なり、へこんだ腹を汚れていない手の甲で撫でた。
    「戻って飯にしざあ」
     一度小屋に戻り背中を軽くし、腹を満たしてから採りに戻ろうと決める。
     裏山で採れる竹の子は柔らかくて美味い。特に刺身で食べたときの、頬のしまるえぐみと青臭さはこの時期でしか味わえない。
     寅三は口内に溜まった唾液を飲み込むと、切りそろえた竹を飛び越えて近道をした。
     数日前の雨で地面はまだぬかるんでいるが、苦労を感じるほどではない。なにせ、物心がつく頃には遊び場だった山は慣れたものだ。寅三の身軽さと竹の子を見つける観察眼は祖父と父のお墨付きで、今日も収穫を任され独り山に登っていた。
     道なき道を下り、目的地まで後少しというところまで来て、寅三は再び足を止めた。
    「なんだあ」
     山の空気が違う。いつもとなんら変わりない光景だが、肌がざわついて落ち着かない。
     鳥の囀りも、採りたての竹の子を盗みにくる動物の気配もない。そこだけが異様な空間になったような錯覚がした。こんなことは初めてだ。
     足下を流れる小川に目をやると、透明なはずの水に赤茶色の濁りが混じっていた。おそるおそる上流を見て、驚きのあまり握っていた鍬を落としてしまった。しかしそれを拾い直すことなく、背負った籠まで放り出し駆け上がった。
     上流には黒い塊――人か熊かが転がっていたのだ。流れてきた赤茶のものは、おそらく泥と血だろう。
     近づくと塊の正体がはっきり見えてくる。黒いと思っていたのは纏った服と髪の色で、隙間から肌色が見えた。人だ。寅三は膝をつき、ゆっくりと両手でその人を小川から引き上げた。水気を含んだ体は重く、トラよりいくらも大きい。髪は長いけれど男のようだ。
     顔に張り付く髪を除けてやると、血の気のない唇がしっかりと呼吸を刻んでいた。
     見慣れない衣服を纏った男は目を閉じていても、端正な顔立ちをしている。日本人にしては鼻が高く、昨今では見られない長さの髪をしているから、遠くから来た異国人かもしれない。耳がやや尖って見えるのもそのせいだろう。
     思わず見とれていた寅三は首を振ると、腰に提げていた手ぬぐいを小川ですすぎ男の顔を拭った。痛むのか、男から低く唸る声が漏れるが目を覚ます様子はなかった。
    「しょんねえ、小屋に運ぶか」
     男を抱き上げるには身長が足りず、仕方なく片腕を肩に回し引きずるように進むはめになる。一人の時とは違い大荷物を抱えているからその足取りは慎重になり、転がした竹の子もそのままに、何倍もの時間をかけて山道を下っていく。
     小屋に到着して、中の荷物を隅に寄せて男を運び入れた。この時期はよく山に入るから、小屋には収穫の道具や救急箱を常備している。滅多に使うことのない救急箱が、まさかこんなところで役に立つとは思いもしなかった。
     寅三は意識のない男に断って、厚手の服を剥いでいく。難解な作りのそれは手こずったがなんとか脱がし終え、むき出しになった厚い胸板に感嘆を漏らす。
     十六歳になっても細いままの自分とは大違いで、少しだけ劣等感を抱いたが、すぐにそれを振り払い治療に専念した。汲んできた水で手ぬぐいをすすぎ、慎重に傷口付近に付いた汚れを落としていく。
     打撲や火傷が目立つが特に酷いのは脇腹の傷で、熊手で抉ったみたいに線が並んでいた。
     それも幸い血は止まっていて、化膿しないように薬を塗りさらしを巻くと寅三は一仕事終わったとばかりに息を吐いた。
    「これでええら」
     今頃になって小屋の窓を開け、緑の匂いを含んだ風を肺一杯に吸い込んだ。肌を撫でる涼しげな風に目を細める。
    「……うぅ」
     自分以外の声にハッとして振り向くと、男が眉を寄せ瞼を震わせた。数度瞬きを繰り返し、隠れていた瞳が露わになる。紫がかった瞳が揺れ、寅三の姿を認めると顔を傾けて、今度はしっかりとその目に映した。
     寅三は見たこともない美しい色にしばし見蕩れてしまった。目の前の人物は村で美人だと言われる女性よりも美しく、色男と呼ばれる男よりも雄の匂いを漂わせていた。生まれて初めて見る存在に寅三は暫く惚けていたが、男の声によって引き戻された。
    「貴様は、何者だ」
    「へ? おらあ、寅三だ。おめえは?」
    「とらぞ?」
    「そうさあ。おめえ、名前なんつうだ? こかあ、おらんとこの山だあ。迷って入っただか?」
    「山? ここは、キマイラの領地ではないのか」
     男は寅三の質問に返す余裕もないのか自問を繰り返し、やがて前髪をかきあげ、ぎりりと歯を食いしばった。奇麗だった瞳に燃え上がるのは、怒りという名の炎だ。
     おそらくこの男は何者かに襲撃され、望まぬままあの小川に辿り着いたのだろう。旅先でこんな目に遭っては苛立つのも無理はない。
     寅三は同国民がしたかもしれない所業に申し訳なさを感じた。
    「腹減ってねえか? 水も欲しけりゃあるに、とりあえず休め。狭いとこで悪いが、おらじゃあおめえを背負って家まで帰れん。すまんな、履物も汚しちまった」
     男は自分の下半身を見るとどうでもよさげに「かまわん」と言って立ち上がる。傷が浅かったとはいえ、男は先ほどまで倒れていたとは感じさせない確かな足取りをしている。
     さすが異人は違うな、と寅三は見当違いな感想を抱いた。
    「俺はバイツだ。不意をくらってここまで逃れたが……ちっ、忌々しい」
     後半は誰に向けたものか怒りも露わに舌打ちをし、バイツは小屋の床に広がった自分の衣服を拾い上げ袖を通した。まだ傷は痛むだろうに、眉を僅かに顰めただけのバイツに強さを感じる。
     バイツは何かに気がついたように、跪いたままの寅三に手をのばすと指で頬を拭った。
     ピリッとした痛みがして、泥を落とされる。
    「なんだあ?」
    「じっとしていろ。いいな」
     状況を把握できないまま唇に柔らかいものが押し当てられ、抵抗する気持ちすらおこらなかった。ただ、力が僅かに抜けていくのは感じていた。
    「っ……悪いが今は礼をしている余裕がない。目的を果たしたら、必ず迎えに来る。それまで待っていろ。絶対、だ」
    「え? 気にしんくてええに。ああ、これ持ってくか?」
     握り飯の入った包みと竹でできた水筒を差し出すが、バイツは不思議そうに見るだけで受け取ろうとせず、仕方なく寅三は手に握らせた。
    「少しだけん、飯が入ってる。うちでとれた米は美味いぞ」
     はにかんで見せればバイツは目を見開いて短く礼を言うと、胸飾りを一つ引きちぎり、寅三の手に転がし今度こそ小屋を出て行った。バイツの瞳と同じ色をした胸飾りは一目で高価なものとわかり、辞退しようとすぐに追いかけたが強い風が通り過ぎていくだけで、どこにもバイツの姿は見えなかった。
     春に浮かれた頭が見せた幻影かとも思ったが、手の中にある紫色の胸飾りは現実にあり、一連の出来事が夢ではないと訴えていた。
     無意識の内に、指が湿った唇に触れる。口づけをされた時を思い出すと、胸がざわめき顔が熱くなる。へその辺りがそわそわして落ち着かない。
    「バイツかあ」
     名を紡ぐ声音も心なしか弾んでいた。
     だがバイツは翌日になっても、翌週になっても姿を見せなかった。一年経ち、二年が経ち、徐々に寅三も諦めの気持ちを抱いてく。目的が果たせなかったかそれとも忘れてしまったのか真実を寅三が知るのは不可能で、次第に約束を思い出す機会はなくなっていった。




     寅三は重い瞼を上げ、霞んだ視界に己が何者でここがどこなのかを思い出し、か細い息を吐き出した。

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    コメント

    • こういうの好きです。

      人間界でも人生まっとう、さらに異世界では……
      主人公、羨ましいかも。イヤなやつなら嫉妬しちゃうところですが、冒頭で惚れちゃったので許せちゃいます。

      愉しいお話、ありがとうございました。
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    • >辰波ゆうさま
      ありがとうございます。

      随分と遠回りした初恋二人のお話でした
      • 1 fav

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    • 面白かったです。
      寅三が若返っても若年寄じみた部分で魔王を密かに牽制してる姿は可愛いなぁとニヨニヨしました。

      ご馳走様です。
      いつか夜伽編も是非キボンんn)`ν°)・;'.、
      • 1 fav
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    • >陸斗サマー
      コメントありがとうございます
      見た目は青年、中身は老人! 書いていておもしろかったです。

      あはんうふんなシーンは、そのうち書きたいです(笑)
      妄想のために寅三描いてくだ……

      私の頭の中で寅三は股引のじいさんのままです( ;´Д`)
      • 2 fav

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    作者紹介

    • 瀬根てい
    • 作品投稿数:14  累計獲得星数:171
    • web、同人、電子書籍でBL小説を書いています。
      精神面でも喧嘩でも強い受けが好き。少年からおやじまでこよなく愛する節操なしです。
      少しでも楽しんでいただけたら光栄です。
    • 関連URL
      サイト:http://moxic.net/

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