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シリーズ:人柱
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人柱

作者:不知詠人

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    追われ、連行される被災者。だが本当の理由は……


    登録ユーザー星:0 だれでも星:0 閲覧数:313

    人柱 2110文字

     

     その若い男はF県からひっそり越して来て、人目を避けて静かに暮らしていた。コンビニの深夜勤務のアルバイトでわずかな収入を得、隙間風の入るボロアパートで必要最小限の物だけで生活した。
     それもこれも人目につくような事をして周りの人間に気づかれないようにするためだ。もし自分の出自が周りに知れたら、無理やり警察に引き渡されて、どこかへ連行されるという事は、もうF県出身者なら常識になっていた。
     青年はいつもこう思っていた。どうして俺たちの方が、追われて逃げて隠れて、人目に怯えながらこそこそ生きて行かなきゃならないんだ?俺たちの方が被害者のはずなのに。
     しかしついにその青年の素性に周りの誰かが気づいた。ある寒い日の深夜、アルバイト先のコンビニに四人もの制服警官が現れ、有無を言わさず彼を店のカウンターから引きずり出して連れ去った。
     彼が連れて行かれたのは警察署ではなく、国の機関の建物だった。やせぎすの気取った眼鏡をかけた、いかにもエリート然とした中年の役人が彼の前に現れ、静かにこう切り出した。
    「あなたのご出身はF県の海沿いですね?」
     青年は苦しげに頭を振りながら、自暴自棄になって怒鳴り返した。
    「ああ、そうだよ!原発事故の警戒区域だった。なあ、教えてくれよ。なんで俺たちがこんな目に遭わなきゃいけねえんだよ!俺たちは被害者のはずだろ?」
     役人は彼に取り合わず、背後に控えていた医師のチームに事務的に命じた。
    「放射線障害の検査を」
     青年は建物の地下の病院の診察室みたいな部屋へ連れて行かれた。もちろん逃げられないように警官が常に二人ぴったりと張り付いていた。
     翌朝検査の結果が出た。地下の鉄格子がはまった部屋で一夜を過ごした彼は、またあの役人の前へ連れて行かれた。彼を椅子に座らせて検査結果が書かれた書類を見ながら、役人は額にしわを浮かべながら言った。
    「信じられん。全くの健康体です。放射線の影響は、個人差が大きいという学説は本当だったんだな」
     青年は希望に包まれた表情で身を乗り出した。
    「で、でしょ!言ってた通りでしょ?F県民だからって全員が全員、放射能の影響を受けてるわけじゃないって。それに放射能は伝染なんかしないって」
    「はい、おっしゃる通りですね。これは隔離しないと」
    「は?おい、聞いてたのか?俺は健康体なんだろ?放射能汚染は大丈夫なんだろ?それなのに、なんで隔離されるんだ」
    「そこが問題なのですよ」
     役人は無表情な顔つきに戻って言った。
    「まったく健康状態に影響がない事故の被災者が存在するなどという事実が世間に知れたら、原発再稼働推進派が勢いづいてしまう。これ以上の原発再稼働をさせないためにも、放射能で体をやられなかった被災者がいては困るのです」
     驚きのあまり呆然とした青年を両脇から警官が腕を取って連れて行った。彼は地下の駐車場に連行され、大型のバスに乗せられ座席の手すりと手首を手錠でつながれた。前後左右を見回すと数十人、同じように疲れ果てて呆然とした顔つきの男女がいた。中には小学生らしい子供もいた。
     みんな同じF県出身者だという事は彼にもすぐに察しがついた。やがて全ての窓と運転席とのしきりが内側から分厚いカーテンで閉ざされ、バスはゆっくりと走り出した。不安、いやそれを通り越して恐怖に震えながらバスに押し込められた人たちは近くにいる相手とささやき合った。
    「あたしたち、これからどうなるの?」
    「隔離って、どこかの離島にでも閉じ込められるのか?」
    「まさか始末されるんじゃないよな」
    「馬鹿な!いくらなんでもそこまでは……」
     やがて全身宇宙服のような恰好のいかつい男たちがバスに乗り込んだ。隊長格らしい一人が鉛ガラスにすっぽり覆われたヘルメット越しに告げた。
    「もうすぐ到着です。隔離施設と言っても刑務所のような所ではありません。衣食住全てが無料で提供されますし、医療設備も完璧です。放射線障害の症状が出たら外へ出られますし、そうなれば帝都電力から莫大な賠償金が払われて、一生遊んで暮らせますよ」
     隊長格の合図で宇宙服みたいな恰好の男たちは窓を覆っていたカーテンを開けた。外を見た瞬間、バスの座席に手錠でつながれた人たちは男も女も恐怖で悲鳴を上げた。なんとか逃げようとするが手錠でつながれていてはどうにもならない。
    「この人殺し!」
     青年は男たちに向けて歯をむき出して叫んだ。
    「どうして俺たちがこんな目に遭わなきゃいけないんだ?」
     隊長格は落ち着き払った口調で答えた。
    「あの原子力災害から何も学ばず、原発の再稼働をしたがっている政界、財界の亡者どもを黙らせるには、みなさんのような健康に影響がない被災者がいては困るのです。あなた方はこの国の未来と、将来の世代の子供たちのための尊い人柱となるのです」
     青年はあきらめてシートに体を沈め、窓の外にそびえ立つそれをなす術もなく見つめた。手を伸ばせば届きそうな程近くに見える、水素爆発で上半分が吹き飛んだ原子炉建屋の列を。



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    コメント

    • 作り話として評価するには現実との関連性が強過ぎますねえ。あと何世紀か経って無事福島原発の後始末も終ったら、初めてネタにできそうな話です。
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