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シリーズ:パラノイア
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パラノイア

作者:藤堂 貴之

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    パラノイア(偏執症)の男の日常を描きました。


    登録ユーザー星:10 だれでも星:2 閲覧数:640

    パラノイア 2694文字

     

     少し疲れていたからかもしれない。
     意識が散漫になっていた俺は、いつもは立たないようにしているホームの先頭に立っていた。俺の五十センチメートル前を電車が通過することになる。俺の使っている駅は急行が止まらないので、電車が時速百キロ以上の速さで突っ込んでくる。電車に轢かれると人間の身体は粉々に吹っ飛ぶそうだ。内臓が飛び散り、骨は砕け、駅員がそれを必死に回収する。痛みはあるのだろうか?と俺は恐ろしくなった。
     背後に人の気配を感じた。振り返ると、いつの間にか俺の後ろに並んでいる男がいた。スーツを着たサラリーマン風の男は携帯電話をチェックしている。まだ年齢は二十代後半といったところだろうか。電車がホームに近づいて来る音がする。もしこの男が少しでも背中を押せば、俺はバランスを失ってホームに落ち、電車に轢かれることになるだろう。男の顔に見覚えはない。ただ向こうはこちらのことを知っているのかもしれない。もしこの男が俺に恨みがあるか、もしくは他の人間に頼まれた殺し屋だとしたら。そんなはずはないことは分かっている。そんな可能性はごくわずかだ。ただ、絶対ないと言い切れるだろうか?もしくは、と俺は思う。こいつがたまたま貧血かなにかで倒れて俺の身体にぶつかり俺はその衝撃でホームに落ちてしまうかもしれない。こいつに悪意がなくてもそのような偶然が重なれば俺がこの男に押される可能性は十分にある。
     そんなことを考えていると、後ろの男が少し身体をずらした。俺はそのタイミングでその場から離れた。列の後ろに並びなおさなければならなかったが、命を落とすリスクを考えれば安いものだ。この列だとおそらく席には座れないだろう。

     電車から降りて、彼女の麻美との待ち合わせのカフェに着いたが、麻美はまだ来ていなかった。俺は待ち合わせに遅れるのが嫌で、いつも三十分前には着いてしまうのだ。先にコーヒーを注文して席で待っていたが、途中でどうしてもトイレに行きたくなった。しかし、このまま飲み物を置いてトイレに行って戻ってきたときに、誰か他の客に飲み物に毒が入れられていたらどうしよう。いや、毒を入れられる可能性は低いが、いたずらでつばをいれられたりゴミをいれられたり、もしくは俺がもう帰ったと思って店員がこのコーヒーのカップを片付けて他の客が席に座っている可能性もある。そんなことを考えているうちに別の客がトイレに入ってしまった。うんざりだ。もう何もかもがうんざりなんだ。そう思っていると麻美がやってきた。
    「精神科で見てもらったほうがいいよ」
     今日考えていたことを話すと、麻美が心配そうな顔をして言う。
    「最近顔色がよくないし」
     確かに病院で一度見てもらったほうがいいのかもしれない。精神科に通うなんて恥ずかしくてたまらなかった。まさかこの俺が、そんなところに行かなくてはならないなんて。

    「最近、生きていくのが怖くてたまらないんです」
     俺は医者に訴えていてた。すべてを話してしまおうと思った。
    「いつも車が横を通過するたびに轢かれるんじゃないかと思う。あいつらはアホだから狭い道でもスピードを緩めないんです。勝手に事故を起こすのはいいけど、自分が巻き込まれたらやってられない。街中に危険がたくさん潜んでいて、なんでみんなのんきな顔して暮らしていけるのかが分からないんです。それとも俺はやはりおかしいのでしょうか?」
    「あなたの例は特殊なケースではありません。この薬を毎日、夕食後に飲んでください。そうすればきっとよくなりますよ」
     その医者の笑みは自信に満ちて輝いていた。カプセル状の薬を二週間分処方してもらい、二週間後にまた来る約束をして病院を去った。病院から出たところを誰かに見られないかが不安だった。
     薬を飲み始めてからしばらく気持ちが安定していたが、だんだん落ち着かなくなった。というのも、ちゃんと薬を飲んだかどうかが分からなくなってきたからだ。 
     今日も俺は薬を飲んだだろうか。どうしても思い出せない。こんなことならちゃんと数を数えて置けばよかった。一応もう一度飲んでみるか。ただ、もし飲んでいたとしたら一気に二日分飲むことになり、身体によくない影響を及ぼす違いない。何かとんでもない副作用がおきてしまうかもしれない。でも、もし飲まなければ飲み忘れていたらどうなるのか?今まで飲んできた効果すら薄れてしまうのではないか。俺は頭がおかしくなりそうになる。結局その日、薬は飲まなかった。

    「薬はちゃんと飲んでる?」
    「うん、最近はちゃんとチェックをつけて、飲み忘れがないようにしてるよ」
     俺は久々に麻美のアパートに着ていた。
    「そっかあ、少し元気になったみたいで良かった。そういえば、いつになったらキスしてくれるの?」
     麻美がソファに座りながら訊いてくる。
    「またその話か。結婚することが確実に決まってからだって何度言ったら分かるんだ。キスをしたらその流れで性行為に及ぶ可能性がある。その結果、子供が生まれるかもしれないだろう」
    「あなたちょっと考えすぎよ。もう付き合って一年になるのに、キスもしてくれないなんて」
    「今なんて言った?」
     俺は苛立って聞いた。
    「今まで付合ってきた人は、みんなすぐにキスしてくれたのに」
     彼女のその言葉を聞いて、頭が熱くなった。
    「ふざけるなよ!ふざけるな!」
     気づくと俺は麻美の部屋をメチャクチャに荒らしていた。本はちらばり、カーペットは乱れ、机の上においてあったものはすべて床に落ち、服はばらばらになり、壁には大きな穴が空いた。
     彼女はしばらく呆然と震えながら見ていた。
    「出て行って!出て行ってよ!あなたはおかしいのよ!狂ってるのよ!」
     麻美は恐怖に怯えた声で泣きながら叫んでいた。
     俺は外に飛び出した。
     暗闇の中、俺は行き場所もなくさまよっていた。もう電車は止まってしまっている。タクシーに乗って自分のアパートまで帰るか。ただ、タクシーのオヤジが変なやつだったらどうする。わけのわからない場所に連れていかれてしまうかもしれない。そもそも俺は駅のタクシー乗り場まで無事に行けるだろうか。この辺は治安があまりよくない。不良ばかりの高校が近くにある。夜遊びしているそいつらの集団にからまれるかもしれない。俺はその場で立ちすくんだ。これからも、これからもずっと俺はこんな世界で生きていかなければならないんだ。
     気づくと、俺は恐怖のあまりボロボロと泣いていた。  

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    コメント

    • こういう一人語り系で、日常に潜む恐怖を描く作品はすごく好きです。
      面白かったです!
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    • らしきさん、コメントありがとうございます!

      日常には危険がいっぱい潜んでいて、ビクビクしながら暮らしています…。
      幽霊よりも日常が怖いです…。
      • 0 fav

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    • パラノイアという病気をとても上手く表現していると思いました。僕自身もその気があるので他人事ではない切なさが残りました。
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    • ファイブスさん、コメントありがとうございます!

      パラノイアという病気の人とそうじゃない人との線引きが曖昧なのが怖いですね…。
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    • 拝読させて頂きました。精神疾患について詳しく無いのですが、実際にこういう症状を抱える患者さんがいそうで、それを考えると「面白い」と評して良いのか悩むところですが、しかし、じわじわと蝕まれる様な不安感は確実にホラーで面白いと思った次第です。
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    • 6号さん、コメントありがとうございます!

      気が狂いそうな不安が日常にはたくさん潜んでいて、考え出すと怖いですね…。

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    • 様々な病がありますが、自分では普通だと思い込んでいる方も多いでしょうね。
      はじめは「考え過ぎだし」と笑って読み進めましたが、徐々にその異常さを知って恐ろしくなりました。
      これは精神的にかなり辛いでしょうね…
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    • チャチャ丸さん、コメントありがとうございます!

      考え過ぎると辛い世の中ですよね。

      「考え方」や「思考内容」は、自分と他の人とを比べられないから怖いと思っています!
      いろんな人がいろんなことを考えながら、何食わぬ顔で暮らしている世界は不気味です…。
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    • 状況の描写と思考の迷走の書き分けがとても分かりやすく、特に精神が突っ走る感じに勢いがあって、一気に読むことが出来ました。
      悲しいお話ですが、とても面白かったです。
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    • コメントありがとうございます!

      ウエキさんのコメントを読み、「思考の迷走」が僕が書きたいことの大きなテーマであることに気づきました。

      恐怖は多くの場合、自分の心の中で生まれる気がしています。
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    • かめかめさん、コメントありがとうございます!

      かめかめさんの作品も読ませていただき、驚きの連続でした。

      新作楽しみにしています!
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