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シリーズ:【BL】必然の錯覚-選択肢-
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【BL】必然の錯覚-選択肢-

作者:瀬根てい

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    ボーイズラブ小説コンテストの「最終選考作品」に残していただきました「必然の錯覚」の番外編です。
    本編ラストあたりの閑話で、二人で物件を見に行くお話です。

    ※サイトに掲載しているものと同じです。
    2008年11月執筆


    登録ユーザー星:4 だれでも星:10 閲覧数:1787

    【BL】必然の錯覚-選択肢- 3825文字

     

     道路に面したガラス張りの壁には綺麗に紙が貼り付けられている。
     駅徒歩5分! 築浅! 日当り良好! と大きくゴシック体で書かれた紙を、何人か眺めてながら通り過ぎていく。店の前で悩んでいた女性は、情報の載った小冊子を手に取って中に入らず去っていった。
     井関浩太はぬるくなったコーヒーを啜り、隣で話を進める小長井聡史と担当者の声をどこか遠くで聞いていた。


     年度を越えてから引越しをするつもりでいた浩太に「そうやっていつも先延ばしにしてるだろ」と聡史は急かす様なことを言ってきた。そのおかげで、浩太が行き先も告げず引越す前に誤解がとけ、二人の仲が親友から兼恋人に昇格したのだがそれとこれとは話が別だ。
     忙しくなる決算前に全て終わらせてしまえばいいという聡史の意見はもっともで、浩太もそれには同意した。
     正月も三が日を過ぎ、聡史の部屋で浩太が実家から持たされた土産を酒のつまみに、日本酒をちびちびと舐めながら部屋条件を二人で話し合う。これが思いのほか楽しくて、部屋が決まる前から色々と想像するだけで胸が躍った。
     一人で部屋を探していた時とは大違いで、浩太は次週もこんな風に時間を過ごしたいと呑気に考えていた。
     しかし互いに出せる家賃の上限から予算が決まると、流されるように週末になって不動産屋に連れて来られた。浩太と違い決断してからの行動が早い聡史は、予め不動産屋に訪問のアポまで取っていたのだ。
     時間より少し前に到着すると、担当者が――年齢は同じか上だ――いかにもやり手らしい笑顔で迎えてくれた。
     うまく言葉で表現できないが、聡史が好かない人種だということはすぐにわかった。
     あからさまにしないものの、馴れ合おうとしない聡史に担当者が名刺を取り出して渡す。聡史も自分の名刺を渡し、今度は担当者が顔を引き攣らせた。
     誰でも起業できる世の中とはいえ、取締の肩書きは組織の中で狭く生き続ける男性にとっては魅力的なのだろう。担当者は心中で無駄な対抗心を燃やしているに違いない。
     ――まあ、いっか。
     暫くは傍観者に徹しようと、浩太は出しかけた名刺を戻した。担当者もプロだけあって、物件選びは滞りなく進んでくれてホッとする。
     内心はどうかわからないが。
    「......なので、こちらはお勧めですね」
    「間取りも良さそうだな。浩太はどう思う?」
    「――え? ああ、最初の2LDKもいいけど余裕欲しいしな」
     飛ばしかけていた意識を引き戻し、聞き取った端々の単語を拾い集め、浩太は当たり障りの無い返答をした。
    「だよな。俺もそう思う」
     ちらりと聡史をの方を見て、浩太はふむと思考を巡らせた。
     聡史の想いまでは気付けなかったが、長い付き合いだけあって何を思っているかなんとなくは読める。今も、条件に合う2LDKと予算を少しオーバーして3LDKにしようか悩んでいて、広い方にしたいけれど踏ん切りがつかないといったところだろう。
     ――後は交渉次第、か。
     下調べの知識と意志の伝え方に聡史の頑張りが加わって、並べられた物件の情報はどれも魅力的で迷ってしまう。言葉の端々が気になるものの、担当者も良い仕事をしてくれ、この後は聡史よりも浩太の方が適任だと判断した。
    「やっぱり、予算がねえ」
     そっと目配せして、浩太はバトンタッチした。
     先ほどまであまり――というよりほとんど――会話に参加しなかった浩太が例の物件情報を手元に寄せ、担当者も自然とそちらを向いた。
     築年数、設備を順々に目で追い、また一つううんと唸った。
    「厳しいですかねえ」
     聡史は自分の負担を増やせば借りられるが、それでは浩太が頷かないとわかって悩んでいる。
     そもそも収入が違うのだから、同額負担にしようというのが無理な話だ。家事の分担や部屋の選択権を聡史優先にすることで、浩太はOKを出した――というよりも、やると言い切って聡史を頷かせた。
     浩太だってずっと一人暮らしをして、当然炊事洗濯もこなしてきた。共に暮らすからには、今までのように聡史に甘えっぱなしでいつつもりはない。
     実は浩太は予算の上限を少し低く提示していた。足りない分を負担しても問題はないのだが、予算オーバーの物件を紹介してきたからにはというある目論見があった。
    「敷金1の礼金2……か」
     指先でトン、トントンとカウンターを鳴らす。
     条件に記された数字を目で追い、もう一つトンと鳴らした。
     ちらりと上目使いに見やると、正面に座っていた担当者が目を見開いてから視線を落ち着かなくさせる。そのやり取りに聡史がつまらなさそうに鼻を鳴らした。
     カウンターが4つ鳴り、浩太は「よし」と唇を動かした。その口角が微妙に上がり、笑っていたのは聡史にしか見えていない。
     指先で鳴らした音と数字で聡史ならわかってくれるだろうと、浩太は会話もせず決めつけていた。
    「この部屋って、結構な期間で空いてますよね」
    「ま、あ……少々長い、かもしれません」
    「こちらを見る限りでは、特に問題もなく良い物件だと思います。決めたいのは山々なんですが、住むところですし悩ましいですね。お勧めしてきたってことは、それなりのものなんだろうし……ううん」
     後一押しで落とせる状態まで来たのだと思わせる口ぶりで、浩太は「いいなあ」と聞こえるようにもらした。
    「お時間があるのでしたら、今から見に行きますか?」
    「見たら益々ここに決めたくなりそうです。でも、こうして紹介していただけるのも何かの縁ですし、折角だから見るだけ……かもしれませんがいいですか?」
    「大丈夫ですよ。生活する場ですし、気に入ったお部屋に住むのが一番いいと思います」
    「ルームシェアとはいえ、それぞれの空間は必要ですもんね」
     わざと聡史を蚊帳の外にして、浩太は担当者と意気投合し盛り上がりこのまま内見に行くと決めてしまった。
     表に車を回してくると行って担当者は店の奥に消え、早速と立ち上がる浩太の腕を聡史は掴んでさりげなく引き寄せた。
    「どういうことだよ」
    「なにが?」
    「だから、なんで」
    「うまくいくかわからないから、もうちょっと見ていてくれ。悪いようにはしないさ」
    「そうじゃなくて」
    「ん? あ、ほら早く行くぞ」
     何か言いたげな聡史を置いて、浩太はジャケットを羽織さっさと表に出てしまう。
     入り口から吹き込む冷たい風に近くのお客が身を縮ませ、浩太は「早く」と聡史を急かした。


    「決まってよかったな」
     間取りのコピーと担当者の名刺を見ながら、浩太は機嫌よく聡史を振り返った。
     内見を終え店に戻ってからの担当者と浩太は、出かける前よりも新密度を増していた。
     担当者が物件でお勧めポイントを説明するたびに大袈裟に反応し、あたかも担当者が凄いというように浩太は言い募った。帰りの車内で聡史は完全に空気として扱われたが、見えないところで浩太が手を握って指先で意思の疎通を謀った。当然運転をしていた担当者はそのことを知らない。
    「だからって、相談も無しに提案するか。半年分の家賃も同時に支払うから予算内で納めてくれなんて、無茶なこと言い出すし」
    「そこは、悪いと思ってるけどおかげで値段交渉できたんだからさ。それに、俺が無茶言い出すってわかってたんだろ? 保証人も身内で立てられるし、聡史の扱いはわからないけど、俺は固定収入だから審査も通るだろ」
     浩太は自分に出来る事――話術で担当者の機嫌を取りつつ、部屋のマイナスポイントを上げ反応を見た。時期的に値下げは厳しいがうまく交渉にもっていくことができて、担当者が折れた時浩太はガッツポーズを取りたくなった。
    「俺も、役に立ちたかったしな」
     マフラーに半分覆われた口をニッと吊り上げて浩太が笑う。
    「はあ、お前には敵わない。ありがとな」
     聡史が諦めの混じった溜息を吐き出し、陽の落ちた街に溶けて消えていった。
     店先でからからに乾いたしめ飾りが風に吹かれ、もうじき役目を終えようとしている。水気のなくなった枯れ葉が車道を横切り、タイヤに踏まれ四方に散っていく。
     焦燥感が募るばかりの光景に心が引き込まれそうで、浩太は立ち止まって後ろを行く聡史に背を預けた。
    「急にどうした」
    「なんかさ、夢みたいでちょっと不安になった。幸せ過ぎて怖いんだよ。聡史とこういう関係になれたのだって。今でも時々夢なんじゃないかって……好きなのは俺だけで、実は親友のままでっ」

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    作者紹介

    • 瀬根てい
    • 作品投稿数:14  累計獲得星数:171
    • web、同人、電子書籍でBL小説を書いています。
      精神面でも喧嘩でも強い受けが好き。少年からおやじまでこよなく愛する節操なしです。
      少しでも楽しんでいただけたら光栄です。
    • 関連URL
      サイト:http://moxic.net/

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