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シリーズ:日本経済は復活しました
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日本経済は復活しました

作者:不知詠人

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    消費税増税で日本復活は本当なのか?
    それをシミュレーションした近未来短編小説。


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    日本経済は復活しました 6913文字

     

     その中年の男は食料品が入った袋を下げて自宅に帰りつき、ダイニングに入った。ちょうど夕食時で妻と高校生に娘がテーブルについていた。男はスーパーから持ってきた袋からパンなどの食品を取り出し、せっかく作ってあった妻の料理には目もくれずに頬張り始めた。娘があきれ果てたという口調で言う。
    「お父さん、いいかげん意地張るのやめなよ。わざわざ消費税払って買うことないじゃない」
     男はむすっとした表情のまま言い返した。
    「おまえとお母さんはそれでいい。だが私はこんな変則経済で手に入れた物を食べるわけにはいかない。日本銀行券を発行している組織から給料をもらっている以上、正規の通貨で買った物以外は一切口にせん!」
     その男は日本銀行の行員だった。現金つまり日本円を介さない売買の方が多数派になって一番困ったのは金融業界だった。証券会社は売買代金決済にすばやくネットのポイントを導入したためダメージは一時的だった。だが、とにかくお金が世間でどんどん動かなくなったのだから銀行は取扱い金額が年々減少し、地方銀行は多数経営破たんした。
     大手銀行は現金と、ネットポイントや0円ショップで扱う交換品の相場を預金者にきめ細かく知らせて手数料を得る、一種の投資銀行業務を新しい経営の柱にしてからくも生き残った。
     だが国の中央銀行でありお札の発行主体である日本銀行はそうはいかなかった。日銀がこの傾向を容認したり、ましてや参加したりしたら日本国の法定通貨など無いに等しい状態になってしまう。
     日銀は頑なに日本円の使用を財界と一般国民に働きかけたが、庶民と中小企業、新興企業には馬耳東風でしかなかった。大企業のロビー団体である経ドン連は立場上、会員である上場企業、大企業に日本円を使い続けるよう要請し、大企業ではかろうじて日本円での決済を維持していた。
     だが与野党が、よせばいいのに性懲りもなくまたぞろ談合して消費税率が1,000パーセントに上がるに至って、ついに財界も堪忍袋の緒を切らし経ドン連は政府との紳士協定の破棄を通告、会員企業にネットポイントや物々交換での取引決済を解禁した。
     同時に経ドン連は会員企業に社員全員の通貨、つまり日本円での給与を法定最低賃金まで引き下げ、残りを毎月「臨時ボーナス」として何らかの製品、物資で支給するよう指導した。大企業の多くはネットで使えるポイントでこれを支給し、中小企業、特に製造業は0円ショップで高値で交換される産業素材などを支給した。
     普通のサラリーマンの場合、それ以前と比べてお金でもらえる給料の額は3分の1ほどになったが、「臨時ボーナス」として毎月もらえるポイントや現物の方が価値があるため、かえって生活には余裕ができた。
     特に家計を預かる主婦はこの措置に拍手喝さいを送った。しかし中小企業では現物支給の量が充分でない時もあり、その場合は現金での給料を上げたが、これは主婦からは大いに反発を買った。
     企業間決済、とくに大企業同士での日本円を使わない取り引きが増えた結果、現金で物を買うのはパソコンとインターネットを使いこなせない年金暮らしの高齢者ぐらいになり、消費税の負担に耐えられない年金受給者の餓死が全国で頻発するようになった。
     政府はあわてて年金受給者への軽減税率を法制化し、年金受給者である事を証明できるカードを持っている買い物客への消費税率を半分にすると発表した。とはいえ、既に税率が千パーセントなのだから半分になっても500パーセントという事で、完全に焼石に水でしかなかった。
     「消費税難民」と呼ばれるようになった高齢者などの餓死、自殺が報道されるたびに総理大臣その他の閣僚は沈痛な面持ちで遺憾の意を表明したが、年金などの社会福祉受給者がどんどん減っていたため内心では喜んでいた。
     そしてこの状況が日本の輸出産業に奇跡の回復をもたらした。最初の要因はレアアースと呼ばれる希少金属元素の不足解消である。電子部品などのハイテク部品製造に欠かせない産業素材なのだが、世界最大の供給国である中国の輸出規制によって世界的な不足に陥り日本も頭を抱えてきた。
     だがいつの間にか0円ショップにレアアースが持ち込まれるようになっていた。持ち込んでいたのは中国人観光客であった。中国国内ではレアアースの持ち出しは厳重に規制されているはずだったが、そこは「上に政策あれば下に対策あり」の国。一人一人が持って来る量はわずかなものだったが、塵も積もれば山となるで、日本企業のレアアースの不足はあっという間に解消され、家電、ハイテク製品のメーカーのコストが低下。
     さらに中国人観光客は主に免税ショップ、つまり消費税を差し引いた値段で買い物ができる店で家電などの日本ブランド品をまとめ買いする傾向が昔からあった。免税店では実質的に10分の1以下の値段になるわけだから、中国人観光客のまとめ買いによって日本製がブランドになる製品の売り上げは激増。
     またレアアースを0円ショップに持ち込めば、ほとんどタダ同然で物が手に入るのだから日本語が話せる中国人の来日がこれもまた急増。この噂を聞きつけて他の国からも観光客が倍増した。たとえばアラブの富裕層は豪華客船に石油のドラム缶を満載して来日するようになり、日本はエネルギー資源に不自由しなくなった。
     そしてより大きな要因となったのは外国為替相場の動きだった。日本の経済学者は日本円の価値は異常なまでに過大評価されていてその結果信じられない水準の円高になっていると指摘した。
     たとえば米ドルに対してだと、$1=1,000円以上の円安になっていないといけないはずだった。消費税分を含めると物価が事実上11倍になっているからだ。だが現実の為替相場は$1=500円台という驚異的な円高が続いていた。
     これはアメリカ、ユーロ圏諸国の経済が不安定なままであるため、投資家が仕方なく「一時の逃避先」として円を買った結果だと推定された。また日本国内で円があまり流通しないため外国為替市場でも日本円が供給不足になり、その結果実態以上に円の価値が上がったという面もあった。
     経済学者の理論上では異常な円高かもしれないが、日本企業にとっては、少なくとも2010年代初頭に比べれば途方もない「円安」になったのであり、日本製品の外国での値段は5分の1になり、それでも日本の輸出企業は充分儲かった。
     こうして日本経済は輸出競争力を回復し、奇跡の復活を遂げたのである。
    「昨年度の年間名目経済成長率は12.7パーセント。貿易収支は十年ぶりの黒字を記録しました。失業率は0.1パーセントにまで下がり、今年度、政府の基礎的財政収支、いわゆるプライマリーバランスは、長年の悲願であった黒字化を達成する見込みであります」
     テレビニュースの画面の中で時の総理大臣が誇らしげに演説する声を、彼は病院のベッドの上で聞いていた。それは現金での買い物に固執していたあの日銀マンだった。彼の顔の下半分は人工呼吸器で覆われ、両腕には何本も点滴、薬剤注入用のチューブが差し込まれ、もう彼が死の床にある事を示していた。
     彼は日銀マンのプライドを捨てる事ができず、ついに日銀まで給与の大半をポイントや金などの現物で支給するようになった後も、頑なにお札と硬貨で買った物しか食べようとせず、重篤な栄養失調状態に陥った。
     一度病院に担ぎ込まれた時、医者は「今の時代に、どうすればこんな栄養状態になるんですか?」と驚かれたが、彼の妻は「もう、主人の好きなようにさせてあげて下さい」と言って涙を拭いた。
     二度目に倒れて入院した時、世間では日銀不要論が叫ばれ、政府も日銀の完全民営化を真剣に検討しなければならなくなっていた。
     現実問題として日本経済は復活した。だが、本当にこれでよかったのだろうか?日銀マンとしての意識の中で彼は自問自答した。いや、これは本当に日本経済の「復活」と言えるのだろうか。そんな彼の思いにはお構いなしに総理大臣はこう高らかに宣言した。
    「増税で経済を再建し、財政を再建した国はない。その世界的な常識を、わが国は歴史上初めて覆したのです。国民のみなさん、どうか自信を取り戻し、再び経済大国への道を……」

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