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シリーズ:ヒット・アンド・アウェイ
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ヒット・アンド・アウェイ

作者:mono-tone

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    学校という唯一つのコミュニティからドロップアウトした少年。その心に秘めた闇は歪み、増殖するが、そのやり場をTVゲームに向けることで危ういバランスを保っていた。
    そんな時手にした“この世の常識を無視した力”を少年はどのように使い、どのような運命を迎えるのか…。

    学生時代に読んだ藤子・F・不二雄先生のSF短編から受けた衝撃を元に生まれた物語で、当時書ききることのできなかった作品を、今の解釈で新たに書き起こしました。


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    ヒット・アンド・アウェイ 20019文字

     

    ヒット・アンド・アウェイ

    ■プロローグ

    am2:00。世に言う丑三つ時に僕は生きている。
    冷たくTVモニターの明かりだけが灯る部屋に、モニターから漏れる音が繰り返し反響する。
    バキッ。ドカッ。タタタッ。
    TV画面に映る二足歩行の爬虫類のような怪物を、屈強な男が鉄パイプで殴りかかる。
    攻撃すると、すかさずその場を離れる。
    怪物の反撃を回避し、再び殴りかかる。避ける。殴る。
    サバイバルホラーゲームでは基本の戦術だ。
    何度もクリアし、繰り返しプレイしてきた僕の腕はかなりのもので、万一敵の攻撃を受けることなどあってはならないほどだ。
    万が一。万が一にだがそんなことが起きれば、プライドが許さず思わず激昂してしまうだろう。

    だからそんなことがあってはいけないのだ。
    次に壊すものが、激昂した自分を鎮静するものがもう見当たらないから。
    粉々に砕かれたオーディオ。切り裂かれたカーテンやシーツ。棚という棚は倒壊し、壁は突き破れた穴だらけだ。窓際には母親が随分前に「気持ちが安らぐから」と持ってきた植物の鉢植えが土を撒き散らして散乱している。
    その中で何事もなかったかのようにTVモニターとゲーム機だけが、ぽつねんと空間を切り取っている。
    僕は無心にモニターに向かう。

    モニター越しに繰り返されるヒット・アンド・アウェイ。
    この時間だけ僕は生きていられる。今のところ。


    ■1、はじまりの夜

    『こんなはずではなかった。』
    いつもこの言葉が繰り返し浮かび上がってくる。
    この言葉は苦しい。だからこの言葉に砂をかける為にヒット・アンド・アウェイを今日も繰り返す。
    僕に生きる意味は恐らく無い。
    また苦しい。思わず脇に転がるバットに手を伸ばす。

    「砂をかけないと・・」
    ゆっくり痙攣する手をグリップから放し、コントローラーに持ち替える。
    手の震えが止まらない。
    ヒット・アンド・アウェイをイメージする。

    ガコッ
    その時窓に何かがぶつかったような音が聞こえた。
    堅い物同士がぶつかり合ったような音に思わず振り向くが、モニターからの明かりだけでは視界が悪く、裂けてぶら下がったカーテンが邪魔をしてよく見えない。
    ここは2階だ。空き巣か何かか。
    「上等だ・・」
    不穏な予感を感じ、ポツリと強がりを呟きながらもバットを手に取る。
    「明かりか・・」
    長らく敬遠していた光源に一瞬抵抗を覚えるが、すぐに明かりに手をかけようとした。
    ガシャン
    窓が割れる音が響き渡る。
    刹那部屋に滑り込む影を確認した。
    戦慄に背筋が強張る。忘れかけていた心臓の鼓動が早鐘のように打ち鳴らされる。
    ガラスの割れた音も、この時間だ。恐らく両親は眠っているだろう。
    気付いていたところで自分が暴れていると思うに違いない。助けは期待できないのだ。
    絶望的な状況に涙が噴き出る。

    影がゆらゆら揺れるように、こちらに近づいてくる。
    窓からの月明かりの逆光に輪郭だけが不気味に浮かび上がる。
    「!!」
    思わずあげそうになった声を押し殺した。
    逆光に浮かび上がった影は、武器を携帯していたのだ。
    大きくひしゃげた棒状のシルエット。そこには影だと認識していた以上に黒く血のシミが浮かび上がっていた。
    明らかにまともではない様子に、ただ止めどなく押し寄せてくる恐怖の思うままになるのみであった。
    全細胞が警報を発して、もう自らのコントロールを失っている。
    なおも揺れるように歩み寄る影に、もはや意識の束縛すら解かれようとしていた。

    部屋の中心。ゲーム機の置いてある辺りにさしかかり、とつと影が歩みを止める。
    「・・こん・・じゃ・・・」
    影がなにかを呻いているが、うまく聞き取ることができない。

    「・・・ちが・・んだ・・」
    「?!」
    ふいに見せた影のゆらめきに、恐怖の支配から逃れた。
    荒れた自分の呼吸に気付き、一つ息を飲んでグリップを握りしめる。
    「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」
    あげた咆哮と同時に、全霊を込めた一撃をフルスイングで見舞う。

    ゴガッ
    骨にめり込む音が響く。
    顔面に直撃した。手ごたえはあった。

    ドサッという音をあげて、影は後方に砕けた。
    芯の無い倒れ方に、仕留めたことを確信する。
    「はぁはぁはぁ・・うぐっ・・」」
    散り散りになった呼吸をまとめようとするも、いうことをきかない。
    それ所ではないことに気付き、ようやく明かりをつける。

    鮮血に染まる影を認めるも束の間、膝から崩れ落ちる。
    そのまま仰向けに倒れ、光源を見上げる。
    心臓の鼓動はまだその主張を止めない。

    血に濡れたバットが転がる。


    ■2、邂逅

    野球好きの父親の影響で気付けばやっていた野球。
    小学校の時は地元の少年野球にも所属していた。
    特別上手かった訳ではない。
    単純に運動神経の問題もあるが、野球好きなだけの父親譲りの華奢な体躯も手伝って、ほとんどはベンチを温めるのが僕の仕事だった。

    それでも野球は好きだった。
    仲間たちと白球を追いかけるのも楽しかったし、たまの出番に活躍してやろうという野心もあったが、何より野球をプレイするときのチームの一体感が好きだった。

    その頃応援している地元の球団が、スタジアムでファンとの懇親会を開くイベントに父親が連れて行ってくれたことがあった。
    野球帽をかぶり、ばっちり装いをきめた僕は、一番大好きなチームの4番バッターに会えることを期待して、興奮を抑えられずに会場に向かったことを覚えている。

    「松木に会えるといいな」
    そう語りかける父も、そのバッターが大好きだった。
    野球中継を見ながら晩酌にビンビールを飲んで、「松木打てーーー!!!」と赤ら顔で4番バッターの名前を応援する父は僕の中の父そのものだった。

    スタジアムでは親子連れや、中学生同士と見られる友達連れが大半で、来るとは聞いていたが、中には草野球チームメイトの親子も見かけて、お互いの親とプライベートな姿を見られて少々照れくさい思いもした。

    監督や選手たちが入場し一気に活気を帯びたスタジアムでは、選手たちとのコーチングやミニゲーム。質疑応答などが行われた。
    人気の選手は競争率が高く、当然4番バッターである松木は大本命で、エースピッチャーと人気を2分しており、アイドルよろしく野球少年たちがこぞって集中していた。

    控えめな性格であった僕は、あっさりと押し出し負けで蚊帳の外だったのである。

    松木を人垣の越しにしか見ることができなかった僕に、気を利かせた父が「肩車してやろうか」と言ってきたが、逆に空しくなるだけだったので頑なに拒んだ。

    そんな中ミニゲームの催しので行われたビンゴゲームにて、1等の商品が『松木のサイン入りホームランバット』だったのである。
    これまで出遅れた分を取り返す絶好のチャンスに、父も意気揚々し「絶対取ってやるからな!」と白い歯を僕に向けていた。
    僕もこの逆転のチャンスに賭けていた。
    ここで自分が当たらなくては不公平ではないか。そういう思いもあった。
    「神様・松木様!!」
    本物の神様と野球の神様に祈った。

    ビンゴゲームが開始された。
    カラカラとビンゴマシンから吐き出される数字も整い始め、周囲からはリーチの声が上がり、整い始めた数字にざわめく会場の雰囲気はヒートアップしてきていた。
    僕はというと、リーチまでもう一歩というところで、なかなかリーチに結び付かない状況に焦りが募るばかりだった。

    「ビンゴ!!」方々から発せられるビンゴの声に肝を冷やしつつ、その結末を見守る。
    このビンゴゲームのルールとして、ビンゴした人から順番にクジを引いて、商品を当てるというもので、早くビンゴしても良い商品が手に入る訳ではないのだ。

    商品もあらかた取りつくされたものの、狙いの松木バットはまだ残っていた。
    「残りものには福があるから」
    ふとそう語りかける父の手元を見ると、バラバラに3箇所程しか空いていないビンゴカードと、それを握りしめる父の手がそこにあった。

    結局バットどころか何も手に入らなかった僕と父は、草野球チームメイトの親子と軽い挨拶を交わしてから、熱気冷めやらぬスタジアムを後にした。
    その時チームメイトは「松木と握手した!」と嬉々と話していた。

    帰りにいつも父と出かける時に食べに行く中華料理屋でラーメンを食べて帰った。

    「楽しかったか」赤く夕陽の射す帰り道でそう話しかける父に、僕は「うん」と答えた。

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    コメント

    • 一息に読みました。最後とかなかなか素敵だと思います。もうちょっと長く読みたかったな
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    • 最後まで読んでいただき、ありがとうございます!長編ものも現在制作中なので、ご期待下さい!!
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    作者紹介

    • mono-tone
    • 作品投稿数:1  累計獲得星数:2
    • 牛歩ですが、upppiというアウトプットで書きたいもの、アイデアを少しづつ出していきたいと思っています。
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