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山間の国道で事故を起こした二人組み。自転車に乗った男を撥ねたのだ。なんとか事故をもみ消そうと二人が考えた策とは…
はねた衝撃はほとんど感じなかった。男が宙を飛び、落下する。
受け身がなっていない。あれじゃ首の骨が折れたぞ。
「なんでアクセル踏むんだ!」良雄が言う。
「まちがったんだ」
「……」
絶句した良雄の顔を見て徹はハンドルを握ったまま笑い出した。
徹をドライブに連れだしたのは良雄だ。三ヶ月前に免許をとったばかりで、運転するのが楽しくてしょうがない。今は仕方なく父親のカペラに乗ってるが、いずれ金を貯めてムスタングを買うつもりだ。
徹は免許を持っていない。教習所には通ったのだが熱意がなかった。一 年の期限で仮免許を取っただけだ。もったいないと自分でも思っているが、 他人には、乗りたい車がなかったんだとうそぶいている。
運転の技術を忘れないために、たまに、ねずみとりのない安全な道で良雄に運転を代わってもらう。最初は嫌がっていたが何度も繰り返すうちに習慣になっていた。
見通しの良い山間の道だった。自転車は突然飛び出してきた。もし、運転していたのが良雄でも避けられなかっただろう。パニックに対応するには経験が必要だ。二人にはそれがない。
「ごめん」
「俺、見てくる」良雄が車を降りる。
徹も後に続く。手前に自転車。その向こうに男が倒れている。
良雄が男の顔を覗き込む。「だいじょうぶですか」
「死んでるよ」
「血は出てないぞ」
「首の骨が折れている」
「なんで見ただけで分かるんだよ」
「こんな角度に曲がるわけないだろう」
「……」
「目だって開きっぱなしだし」
クラクションが聞こえた。後ろから軽トラックが走ってくる。
「自転車、取ってきて」徹が言った。そして死体を抱き起こし、座らせる。
良雄が自転車を押してきた。死体の前に停めるよう指示を出す。
軽トラックが徐行してくる。
パンクした自転車を直してるところだ。徹は自分に言い聞かす。
「空気入れ取ってくれ」良雄に言い、タイヤに向かう。
軽トラックが走り去る。
「そんなもんないぞ」
徹が見上げると、もう一度良雄が言う。
「空気入れなんて持ってないぞ」
徹は思わず笑い出した。
死体と自転車を積み、再び走り出したカペラ。
徹は助手席にいる。「どこか、離れた場所に置いていこう。そうすれば警察も捜査できない」
「きっと、つかまる」
「現場から離れりゃ大丈夫だよ、ブレーキの痕もヘッドライトの破片も落ちていない。痕跡がなけりゃたどりようがない」
「埋めるか」
「そこまですると、発見されたとき面倒だよ。警察だって必死に調べる」
「そうか」
「ただの、ありふれた交通事故」
「お前、すごいな」
「なんでそんな冷静なんだよ」
「二回目なんだ」
「……」
「嘘だよ」
後部座席を見て徹が言う。「あいつあんな顔だったか」
「誰?」
「彼だよ」
「どうかしたのか」
「笑ってるぞ」
「気持ち悪いこと言うなよ」
「死後硬直かな、笑ってるように見えるぞ、くちもとが」
「きっと俺たちは破滅するんだ。だから笑ってるんだよ」
「なるほど」
「否定してくれよ」
「お前にしては、いいこと言うな」
「頼むよ、俺、怖くて死にそうなんだ。事故ってもしらないぞ」
徹は暫く考えてから話し出した。「彼は、この世の者ではないんだ。国道に住む妖精なんだよ。この国道が出来たときから彼はいて、自転車に乗って走り続けてるんだ」
「そいつを俺たちは轢いたのか」
「そう。でも、彼は死なないんだ、妖精だから。時間がたつと生き還って再び走り始める」
「ありがとう、気が楽になった」
「どういたしまして」
「いいことを思いついたぞ」
良雄が聞く。「なに」
「もう一度自転車で走らせるんだ」
「……」
理解できない良雄に向かい言葉を続ける徹。「自転車に乗っけるんだよ、死体を。そして他の車にぶつけるんだ」
「どうやって」
「走ってきた車に向かって、俺たちが自転車を押すんだよ。ガシャーンとぶつかるのを見て、家に帰る。あとはしらない」
「そんなことうまくいくのか」
「やってみよう」
峠に停まるカペラ。
良雄がトランクから自転車を取り出す。後部座席から死体を担ぎ徹が出てくる。
坂の頂に二人は立つ。国道にぶつかる道だ。
徹が言う。「半分くらいまで下ろう。タイミングが取りづらい」
自転車を押しながら良雄が言った。「お前といると心強いよ。うまくいくような気がしてきた」
「俺のせいだからね。なんとかきりぬけなきゃ」
「俺が女だったらお前に惚れるな」
「そう言われても」
「わるい」
走ってくるトラックを指さして徹が言う。「あのトラックが山の陰に消えてから、坂の下に出てくるまでの時間を計ってくれ」
腕時計を見つめる良雄。
徹は死体を地面に置き、自転車に跨る。「俺はこっちの時間を計る」腕時計を見ながら、足を浮かす。自転車が転がり始める。自分が死体になったつもりでスピードに身を任せる。次第に加速していく。
俺は死体だ、目を閉じなきゃ。暗闇で風が吹いている。気持ちいいな。いつか、免許を取ったら自転車を積んでドライブに行こう。海につづく坂道で、またこうやって自転車に乗ろう。水を感じるまで目を閉じていよう。
良雄が叫んだ。
クラクションが闇を砕く。
トラックが自転車の後輪をひっかけ、徹の体が地面に投げ出される。
良雄が走る。
徹の体が転がり出す。
トラックが走り去っていく。
良雄が走りながら、再び叫ぶ。
ガードレールにぶつかって徹の回転が止まる。良雄が徹を抱きしめる。
「徹!」
徹は空を見ている。
「徹!」
「タイム計ってたか」徹が聞いた。
大型トレーラーが走ってきている。
自転車に乗せた死体に良雄が声をかける。「途中で転ぶなよ」
「歯、磨けよ」
「宿題しろよ」
自転車を押し始める。
「さよなら」
「さよなら」
二人の手が離れた。
自転車が走っていく。
「楽しそうな顔してたな」徹が言った。
「あいつか」
「ああ」
エンジン音が近づいてくる。
坂の途中で見守る二人。
自転車のバランスが崩れた。
良雄が唸る。
トレーラーが姿を現した。飛び出してくる自転車を発見し警笛が鳴る。
ブレーキが悲鳴をあげた。
死体が顔を上げる。
自転車は見事なハンドルさばきでトレーラーをかわすと、呆然と見守る二人の前から走り去った。
良雄は徹を見た。
彼ならこんなとき、きっと笑いだすだろうと良雄は思った。
<終わり>
2012/09/13 11:33:24
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└かって日本は耕地面積が少ない村では、家長となる長男より下の子供を養う余裕がない。そのため、家に残った下の子供は「おじろく(男)・おばさ(女)」と呼ばれ、長男のた…
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