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シリーズ:落とし穴
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落とし穴

作者:藤堂 貴之

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    落とし穴に落ちた男の子の話を描きました。


    登録ユーザー星:5 だれでも星:0 閲覧数:267

    落とし穴 2294文字

     

     真っ暗でひんやりとしていた。
     息苦しくて、土の匂いが鼻にこびりついた。
     運よく、怪我はないようだった。
     僕はどうやったらここから出られるかを考えていた。
     穴の深さは三メートルくらいだろうか…。見上げても、真っ暗な空しか見えない。
    「誰かー!助けてくれー!」
     声の限りに叫んでみたが、まったく反応がない。
     このまま待っていたら、誰かがここを通って助けてくれるだろうか?
     今から夜の校庭に誰かが来るとは考えにくい。明日の朝になれば気付いてもらえるかもしれないけど、それまでこの穴の中にいなければならないのか…。
     そもそも僕は、学校に忘れ物を取りに来ただけなのに、なぜこんな目にあわなければならないのだろうか…。
     雨がぽたぽたと降り始めてきて、顔にかかった。
     このままでは穴の中が雨の水に埋まって、窒息してしまうかもしれない。雨に濡れた体は、急速に冷え込んでいた。
     穴の中から這い上がろうとするが、つかむ場所がないのでなかなかよじ登ることができない。僕は手を側面の泥に差し込んで、少しずつ上に登っていった。泥が飛び散り、口の中にも入り込んでくる。何度も失敗してずり落ちてしまったが、泥の中でもがいていると、だんだんとコツがつかめてきた。
     僕は泥だらけになりながら、なんとか穴の中から脱出できた。
     校庭に出ると、意識が朦朧として、僕はその場に倒れてしまった…。

    「こんなことを話しても信じてくれそうなのは、松川だけだから話すんだけどさあ」
     放課後の教室には、僕と松川しかいない。校庭で遊んでいた生徒も、既に下校したみたいだ。窓からは夕陽が差し込んでいる。
    「ああ、なんだい」
     松川は僕が一番仲の良い親友である。幼稚園の頃からの幼なじみだ。
    「僕が落とし穴に落ちたって話は、知ってるだろ?」
    「金曜日の夜だろ?今日の朝礼でも先生が話していたし、話題になっていたじゃないか。救急車で病院に運ばれたってのは本当なのかい?」
    「うん。校庭で倒れているところを、犬の散歩をしていた近所の人がたまたま見つけてくれて、救急車を呼んでくれたんだ。土曜と日曜は病院で安静にしていて、体調は良くなったから、今日からは普通に学校に通えたんだけどね」
    「災難だったよなあ」
     僕の爪の中にはまだ、あのときの泥が残っている。何度も体と手を洗ったが、爪の奥の泥は取れなかったのだ。
    「あの落とし穴は誰かのいたずらで、たまたま運悪く僕が落ちたっていう話になっているみたいだけどさ、僕は違うと思うんだ」
    「というと、どういうことだい?」
    「あれは、僕個人が狙われて作られた落とし穴だったと思うんだ」
     二日間病院のベッドで生活しながら、考えていたことだった。
    「それはまあ、どうしてそう思ったんだ?」
     いつも冷静な松川は、大して驚いてもなさそうに聞き返してきた。
    「落とし穴は校庭の隅に掘ってあった。僕たち六年生の教室は、校庭を通って玄関に行くことになるから、教室に入ろうとするとあの隅の道を通ると近道だよね」
    「かなりのショートカットだからね」
    「このショートカットの道を知っているのは、六年生の生徒でもたぶん数名ぐらいじゃないかな」
    「そうかもしれないね、僕も知っているけど、知らない人のほうが多いかもしれない。少し服が汚れることもあるから、女の子は知っていてもあの近道は通らないしね」
    「だから、あの近道に落とし穴を掘った時点で、落ちる人は限られてくるんだ。さらに、僕があの日の夜に、放課後の教室に戻ろうとしたのには理由がある」
    「なぜだい?」
    「僕はあの日、日直をしていた。日直係はその日の反省点を、日誌に書いて次の日までに持って来なければならないよね」
    「ああ、あの担任のせいで、そういう決まりになった」
    「この決まりを面倒がっている生徒は多い。松川、君もそうだったよね。それで君は日誌を書かずにいたら、担任に思いっきり怒鳴られた」
    「そうそう、しかも怒鳴られているところを君だけには見られていたんだよな。恥ずかしかったよ」
    「僕は日誌を書かなかったら、どんなひどい目にあうかを目撃してしまったわけだ。それで金曜日、僕は日誌を教室の机の上に、忘れて帰ってしまっていたんだ。僕は焦ったよ。絶対に日誌を取りに学校に戻らなければならない」
    「そう思うのは自然だよな」
    「つまり、落とし穴を掘った犯人は、僕が校庭の隅のショートカットを通ることを知っている人物で、さらに、僕があの日、日誌を絶対に取りに戻ってくることを知っている人物…、ねえ、この二つが重なるのは君だけだよね?」
     松川の顔が一瞬青ざめた、ように見えた。
    「つまりさあ、落とし穴を掘ったのは松川だったんだろ?」
    「…」
    「君は僕に何らかの恨みがあったんだ。たぶんだけど、香奈美ちゃんに最近僕がチヤホヤされていたのを嫉妬してたんだ。君は香奈美ちゃんのことが好きだからね。でもさあ、こんなやり方はひどいんじゃないか」
     香奈美ちゃんの名前を出したときに、松川は恨みのような表情を一瞬見せた。
    「僕は君のことを親友だと思っていたから、落とし穴を掘ったのが君だと気づいたときショックだったよ」
    「…」
    「でもね、君はやっぱり優しいよ。落とし穴も、僕が怪我をしないくらいの深さにしてくれたんだからね」
     僕がそう言うと、
    「もっと…」
     と、松川がぼそっと言った。
    「もっと…深く掘っておけばよかった…」


    (完)

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    コメント

    • 暗くてせまい穴の中に閉じ込められて出られないともがいていたら夢だった、なんて経験したことがあります。決してありえない話ではないから怖いですね~
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    • ルーカさん、コメントありがとうございます!

      僕もよく閉じ込められる夢にうなされています…。
      ただ悪夢を見たらホラー小説創作には役立ちますよね(笑)

      • 0 fav

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    • これは…これは三段階ショックですね!@@;
      落とし穴、犯人、最後のセリフ…
      主人公の気持ちを考えると本当、恐ろしいのです。ぶるぶる;;
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    • チャチャ丸さん、コメントありがとうございます!

      最後のセリフをショッキングなものにしたかったので、指摘していただけて嬉しいです!
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    • 短いけれど綺麗にまとまっていてよかったです!
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    • りんねさん、コメントありがとうございます!

      長い小説も書きたいのですが、話をふくらませるのが難しいですね…。
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    • さいとうたけしさん、コメントありがとうございます!

      ゾっとしてもらえて嬉しいです!
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