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シリーズ:オサキ
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オサキ

作者:三塚章

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    昔話のような。きこりの吾助の前に、美しい娘が現れる。


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    オサキ 2282文字

     

     雪をかぶった木々の間を、一人のきこりが歩いていました。きこりの名は吾助といいました。ふもとの村まで、入り用の物を買いにいった帰りでした。
     雪の静けさの中で、何か細い声を聞き、吾助は歩みを止めました。声の元へ近付いてみると、狐が一匹、猟師の罠にかかり、動けぬままうずくまっています。その毛皮の美しい事。何より、その尾は二つに裂けています。とても並みの獣とは見えません。
    「この山の神かも知れない」
     そう思い、吾助は罠を解いてやりました。

     その次の年の冬、真夜中の事でした。吾助は炭を焼いていました。炭焼きというのは、窯の火を一晩中絶やす事はできません。窯から漏れる赤々とした火が、闇の中に降り積もる雪を照らしだしていました。
    「もし……」
     声をかけられ、吾助が顔をあげますと、いつの間にか女が立っていました。
    「道に迷い、難儀をしていたところ、ここの煙を頼りにたどりつきました。今夜一晩、泊めていただけないでしょうか」
     炎に照らしだされた女の頬はほの白く、唇は濡れたように赤く、妖しく見えました。

     女は、オサキといいました。吾助が一晩二晩と女をひきとめ、いつしかサキは吾助の妻となっていました。吾助には、死んだ妻との間にみよという一人娘がいましたが、サキはみよを自分の娘のようにかわいがりました。美しい布が手に入った時なども、自分はぼろを着ていても、手ずからみよのために着物を縫って着せるのです。みよも、本当の母親のようにオサキになついていました。
     夏のころです。みよは病になりました。二人は懸命に看病をしましたが、一向によくなりません。少しずつみよの体は衰え、やせていきます。吾助はみよを抱え、回復を願うために村の神社へと向かいました。両腕に子供を抱え、山を下って行くのは用意な事ではありません。思わずよろけてしまい、木の枝がみよの着物にひっかかりました。慌ててはずそうとした吾助は、木の枝で裂けた衿のなかに、細く折り畳まれた紙が縫い込まれているのに気がついたのです。 
     広げて見ると、それは札のようでした。吾助には分からない文字が血で書き連ねてあります。いえ、ただ一文字、吾助にも読める文字がありました。『呪』。
     熱かったみよの体温が、見る見る下がっていきます。いえ、熱がひいたのではありません。命が消えようとしているのです。
    「その子はもう、助かりませんよ」
     静かな声がしました。いつの間にか、オサキが立っていました。
    「オサキ、お前がこれを縫い付けたのか」
     着物を縫(ぬ)い、繕(つくろ)うのは、オサキの仕事でした。この符を仕込めるとしたらそれはオサキしかありません。
    「ええ、そうですよ」
     母の声を聞いて、みよがかすかに顔をあげます。
    「お……おっかぁ」
     握ってもらおうと伸ばしたみよの手を、オサキは身を退いてさけました。みよの目は大きく見開かれ、そして閉じられました。手がだらりと下にさがりました。
    「みよ、みよ!」
     吾助が涙を流し、体をゆさぶっても、みよはもう返事をしませんでした。
    「ほほ……」
     オサキはかすかに笑いました。
    「オサキ、なんでこんな事を!」
    「あなたこそ、なぜ私の子供を殺したのです?」
     そう言われても、吾助にはなんの事だか分かりませんでした。
    「私は、夫と息子と暮らしていました」
     オサキの目は、遠くを見つめているように、どこか視点が定まっていませんでした。
    「そして私の息子も、病にかかりました」
     オサキの視線がスウッと吾作の上で結ばれました。
    「あなたは、尾が裂けた狐を見た事があるはずです」
    「あ、ああ。確かに」
     それならば、忘れた事はありません。 
    「私の子供の病を治すには、尾裂き狐の肝が必要でした。猟師であった夫は、山中を駆け回り、罠をしかけ、狐を仕留めようとしました。しかし、ある日山から帰って来なくなった。休みなく山を駆け回ったせいで、寒さと疲れに命を吸い尽くされ、その体は狼にでも食べられたのでしょう」
     オサキは袖でそっと顔を隠しました。
    「そして、息子も病に苦しみ抜いて死にました。そして一人残された私は、夫を探しに山へ飛び出し、外された罠と、雪の上に残った人の足跡を見たのです」
     まるで強い風に吹かれたように、オサキの黒髪がふうわりと広がりました。
    「ひ、ひい!」
     吾助は、みよの体を抱えたまま、地面の上に尻をつきました。
    「ああ、誰かがせっかくかかった獲物を逃がしたのだ。もしかしたら、二尾(にび)の狐であったかも知れない物を。逃がした者が憎い。ああ、尾裂の狐、尾裂の狐さえあれば……口惜しさに身をよじり、自分の頬と言わず喉と言わず自分自身で掻き傷をつけ、血にまみれ、私もとうとう狂い死に。これ、このとおり、浅ましい化生となったのです」
     オサキの顔が歪み、目から下が狐の物になりました。狐を念じながら死んだ故(ゆえ)でしょう。捲れあがった口から真っ黒い歯茎が見え、乱杭(らんぐい)の牙が剥出しとなり、その先端からヨダレがしたたっています。
     みよの体を捨て、吾助ははいつくばるようにして逃げようとしました。
    「この身になってみて初めてわかりました。あの時狐を逃がした物があなた様だという事を。さて、慕った妻に可愛い娘を呪い殺され、喰い殺される気分は如何(いかが)」
     目を細め、小さなうめき声をあげると、オサキは吾助の喉を目掛け、大きく顎(あぎと)を開きました。

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