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シリーズ:引き籠り公爵の受難
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引き籠り公爵の受難

作者:斑鳩青藍

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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     小国リュシュテンブルク公国。筆頭公爵家の若き当主リュシオンは、別名《引き籠り公爵》と呼ばれている。
     毒舌家で、人間嫌いと悪評の限りだが、次期大公に名が上がった事で大公の座を巡る争いに巻き込まれて行く。


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    引き籠り公爵の受難 2074文字

     

     ―――パイにクッキーに砂糖菓子、焼きたてマフィンにマーマレード。
     台所で、その女は歌っている。
     ―――蜂蜜たっぷりのパンケーキに、チェリータルト、ハーブティーをもう一杯如何?紅茶のシフォンにクリームを添えて、楽しいお茶会の始まり。
     本当に楽しそうに歌うその姿を、彼は好きだった。
     本当なら、それら菓子が望むように揃う所で暮らせるのに、彼女は言った。貴方がいれば充分幸せなのだと。
     ならば、その幸せがいつまでも続くように自分も祈ろう。何もないけれど、洋菓子のように甘く満ち足りた時間がいつまでも彼女のために流れるように。
     ―――プリンに苺のハバロア…。
     彼女の人生の中で、決して開かれる事のなかったお茶会。夢見る彼女の自作曲。
     ―――愛しているわ、私の―――。
     愛する者の名を歌に混ぜ、彼女は目を閉じた。
     「貴方の為に焼いたショコラケーキ、テーブルには百合の花。お茶会はもう終わり」
     永遠に―――。
     彼女の瞳も、二度と開かれる事はなかった。
     側には、花瓶に飾った百合の花だけがある。そこに込められたメッセージを、彼女の息子が気づくのはもう少し後のこと。

     中世の町並みが広がる、リュシュテンブルク公国首都。漸く長い冬から目覚めた北国の都に響き渡る金属音と雑踏。
     カンッ―――。
     火花を散らして、剣と剣がぶつかった。
     二対五―――、圧倒的振りの中、二人の男は長い黒髪を乱して石畳みの路地を走り抜けた。散歩のつもりでふらりと出た街に、いきなり現れた男たちに斬りかかれ、男の眠気は吹き飛んだが、気分は良くはない。
     「全く、しつこい奴らだ」
     「リュシオン様、今度はどなたに何を言ったんです?命を狙われる程のなんて」
     「何も言ってねぇ!刺客を放ってくるこんな陰険な遣り方は、一人しかいないが」
     「まさか、あの方ですか?まさか?―――っと…!」
     刺客の剣を巧みに交わし、二人は路地へ逃げ込んだ。
     「奴が動かなくても、代わりに動いてくれる忠実な人間もいる」
     「貴方といると退屈しませんが、寿命が縮まるような気もします」
     「偶に外出は如何ですか―――と連れ出したのはお前だぞ。アージェント・グレイ」
     「引き籠りは、躯に良くありません。主を心配するのは、お仕えする者として当然かと、公爵殿下」
     「その殿下はよせと言っている」
     この緊張感の中、とても主従関係にある二人の会話と思えぬ舌戦に、「探せ!」と言いながら、横を刺客たちの足音が遠ざかって行く。
     公爵リュシオン・ロズウェルは、命を狙われている。《悪名高き引き籠り公爵》など呼ばれてしまっている故に無理はないが、決して悪列非道な真似はしていない。多分…。
     彼の側でそう思いながら、ロズウェル公爵家の若き執事アージェントはやれやれと剣を鞘に収めた。
     そもそも、何故命を狙われるのか。本当の理由は、多くの者は知らないだろう。
    リュシュテンブルクには、三公爵と呼ばれる公爵家がある。初代大公の四人の息子によって内三人が公爵家を興したと言われる。
     後に、三公制度として大きな実行権をもつのは三代目大公の時代からである。
     リュシュテンブルク公国の三公制度―――、三代リュシュテンブルク大公の時代に築かれたそれは、大公を補佐し、政を正す三人の公爵たちの事を云う。ボルジア大公家から分かれた言わば分家筋、リュシオンはその内の一つ、ロズウェル公爵家の当主だった。
     更に三公爵家にはもう一つ、役目があった。次期大公の選出だ。大公家に世継ぎが生まれなかった場合、三公の中から次期大公が選出され、その家が次の大公家となる。
     最も有力なのは、現リュシュテンブルク大公クレマンの異母弟が当主を務めるサージル公爵家だが、予想以外の事が起きた。
     リュシオンは、命を狙われる心当たりがしたらそれだと認識している。
     「まったく、煩せぇ…」
     乱暴な髪をかき上げる主に、アージェントが大袈裟に嘆く。
     「リュシオン様、今更性格と口を何とかしろとは言いませんが、せめてもう少し何とかなりませんか?」
     袖口からレースを覗かせた黒地のジュストコール、日常でも下にウエストコートを着用するのが貴族や側に仕える者の身嗜みだが、彼は直接ブラウスに羽織っている。
     黒髪は更に乱れ、とても公爵だと周りは思わないだろう。
     年齢は、アージェントと変わらぬ二十八歳。
     「この方が楽なんだよ。帰るぞ。昼寝のやり直しだ!」
     「―――本当に腐りますよ」
     「何とでも言え。マジで当主の座に嫌気が差して来た」
     「御屋敷に戻ったら特製のハーブティーを御煎れしますよ。甘い洋菓子つきで」
     「―――俺が甘いものを食べないのを知ってるだろう。それは嫌がらせと言うんだ」
     「上達したんですけどねぇ…」
     「お前、昔から変なもの覚えるな…」
     「記憶力がいいと言って頂けませんか? ―――蜂蜜たっぷりのパンケーキに、チェリータルト、ハーブティーをもう一杯如何?紅茶のシフォンにクリームを添えて、楽しいお茶会の始まり♪」
     「それは歌うなと言った事は忘れるんだな」 
     「アレは、貴方の所為じゃありませんよ」
     表情を消した主に、アージェントは何を察したのか珍しく慰めの言葉を放つ。
     街を吹き抜ける風は、もうすっかり春であった。

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    作者紹介

    • 斑鳩青藍
    • 作品投稿数:7  累計獲得星数:7
    •  斑鳩青藍(いかるがせいらん)と申します(≧∇≦)
       ファンタジー系、中華風、和風BL小説好きで、自分でも執筆したりしています。応援コメント、感想、レビューお持ちしておりますm(。_。;))m ペコペコ…
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