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シリーズ:素足の囚人
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素足の囚人

作者:Hiro

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    荒れ狂う海辺に接した厳しい監獄。そこには人の目に触れられぬよう、異貌の少女が捕らえられていた。

    ※『水牢の囚われ人』の登場人物と変更し、話の焦点を少女に合わせた別話です。時間軸上、アンセやグレムの前任者のお話となりますが、文字数の都合であちらに詰められなかった設定もこちらには対応させていただいております。


    登録ユーザー星:6 だれでも星:0 閲覧数:732

    素足の囚人 7472文字

     

     深い森を抜けるひび割れたアスファルトの先は、中世ヨーロッパの要塞を思わせる厳めしい監獄へと繋がっていた。
     三方を切り立った崖に、残る一方を獰猛な獣の住まう森に囲まれたその場所は孤島のごとく外界から隔離され、重罪人を逃さぬという役割を忠実にまっとうしている。
     だがしかし、そこに関係するほとんどの者は知らない。その監獄には囚人を捕らえる以外にも、もうひとつ別の役割があることを……。

       †

     ラギは監獄に勤めるまだ若い青年である。
     学力に秀でた訳でもなく、とりたてて真面目でもなかった彼はハイスクール卒業後の働き口に恵まれず、監獄という劣悪な職場に看守として勤めていた。そこで与えられた仕事は辛く逃げ出したいものであったが、他に行き場所のない彼は渋々とそこで働いていた。
     ラギが監獄に勤めるようになり一年が過ぎようとした頃、彼はマキスという上役に呼び出された。確かに彼の働きぶりはまじめとは言い難かったが、それでもマキスという雲の上の存在に直接呼び出される覚えは彼にはなかった。
     ラギはくたびれぎみの制服を少しでもマシにみられるように整えると、緊張した面持ちで訪れた部屋へ入る。
     その部屋は古びた監獄にあるとは思えぬほど、豪奢な造りとなっていた。センスの良い高級家具が並び、真っ白な壁は清潔そのものだ。初めて入る部屋の豪華さにラギは驚きを隠せなかった。
     だがそれ以上に驚いたのは初めて面会するマキスの美貌と若さだった。噂は耳にしていたが、眼前にいる部屋の主はどうみても二十代前半で、彼女の持つ大きな権力と釣り合ってはいない。
     白人特有の透けるような肌をもち、クセのある赤毛はどこかどこか荒々しさを感じさせる。仕立ての良い制服を着崩し、解放された胸元から魅惑的な谷間を覗かせる姿は高級娼婦のようでもある。もっともその瞳には肉食獣を思わせる力があり、商売女のような男に媚びたところは一欠片もありはしなかったが。
    「さっそくだが、おまえを呼び出した理由を説明してやろう」
     ラギを呼びつけたマキスは乱暴な口調で説明を始める。それは看守である彼の担当を別の箇所へと換えるというものだった。
     それまでラギが担当していた牢獄は不衛生で乱暴な囚人が多く、未熟な彼に辛く当たる先輩看守もいた。兼ねてよりそこから逃げ出したい思っていた彼には、配置換えは願ってもないことだった。
     だがその反対に不安もあった。どうして自分の様な未熟な看守の人事にマキスが関与するのかと。
     目の前の美女には不穏な噂がいくつもある。表沙汰にはできないような方法で現在の権力を手にしたという噂。若くみえてもすでに四十を超えるという噂。彼女の不興を買った者は囚人であれ看守であれ監獄から姿を消すという噂。中には監獄内で怪物を飼っているという冗談のような噂もあったが、呼び出された私室の豪奢さから、少なくとも監獄内で好き勝手をやるだけの権力をもっているのは確かだと思えた。
     だがいくら不安に思おうとも、行き場のないラギに逆らうという選択肢はない。あるいはそこまで考慮してマキスは彼に命じているのかもしれない。
     ラギが自分に組したことを察すると、マキスは毒々しいほど紅く塗られた口から新しい仕事を伝える。
     それはラギがそれまで知らなかった『最奥』と呼ばれる牢獄の監視だった。

       †

     ラギが最奥への入口に立ち入ると、その背後で扉が重い音を立て閉められた。
     ラギはこの重厚な扉が自分を閉じ込めるものなのではないかと疑ったが、扉を内側から開ける方法はない。逃げ道を閉ざされた彼は、ちゃんと帰りにこの扉が開けられることを祈りつつ、前方の薄暗闇をみつめる。そこには螺旋を描く石造りの階段が地下深くまで伸びていた。
     ラギは足を滑らせぬよう、また手にした食事を溢さぬよう注意しながら階段を下りていく。
     その場の空気は不快なほど湿気を帯びており、まるで海の中へと潜っているようであり、鼻をつく潮の臭いは階段を下りるほどに濃くなっていった。
     やがて階段をすべて下り終えると、鉄格子とアクリルの板で遮られた独房が彼の前に現れる。ラギはその内側にいる囚人の姿に、己の眼《まなこ》を疑った。
     監獄の最も深き檻に封じられていたのは、まだ十四、五であろう少女だった。

     少女はその場に現れたラギに目も向けず、質素なベッドに座ったまま立てた片膝に己の頬をのせ、残ったもう一本の足で自らの髪を暇そうに弄んでいた。
     ラギはなぜこれほど厳重な場所に少女が囚われているのか疑問に思いながらも、そこに用意されていた椅子に腰を下ろす。そして初めて出会う監視対象に声をかけることもなくジッとみつめた。
     日に当たらぬせいだろう、少女の肌は不健康なほど白かった。頭部には長い白髪《はくはつ》が手入れもされぬまま垂れ落ちている。大きな瞳と小さな口鼻が幼さを演出していたが、それがあまりに整いすぎていたために可愛らしさという要素を抜きとっていた。
     厳重な檻に囚われながらも、そのいでたちは囚人服でなく、垢で薄汚れたシャツを身にまとっているだけだ。両腕は後ろにまわされ革の拘束具で一本にまとめられている。しかしラギが目を奪われたのは別の部位であった。
     それは少女のとても長い足だ。
     背はラギより頭ひとつ分低いものの、そこから伸びた足だけが異常なほど長い。身長の半分以上が股下であり、その姿は人に似せられてはいるものの、まるでちがう新種の生物の様でもある。
     それでもラギは監視の対象が少女であることに安堵していた。
     ここにやって来るまでは、どれほど恐ろしい罪人の監視をさせられるのだろうかと怯えていたが、そこにいたのはただの少女だ。少々奇異な外見をしてはいるが、脅威を感じさせるものはない。
     檻の中の少女が足の裏を口にあて、大きくあくびをかくと、ラギの気はだいぶゆるみだしていた。

       †

     ラギがマキスから与えられた仕事は、牢獄内にいる者に食事を配膳する事、その者を監視し決して逃さぬ事だ。少女の名は教えられていないが、それはこの少女に限った話ではない。監獄に捕らえられた者はみな例外なく名をとりあげられ、代わりに番号がつけられその番号で呼ばれるのだ。しかし少女には、その番号すらもつけられてはいない。そのことを疑問に思いながらも、ラギはあまり深くは考えようとはしなかった。
     ラギと少女の間を遮る檻は、太く強固な鉄格子と分厚いアクリル板の二重構造となっている。しかし、その隅には小さな出入口が作られており、食事用の細長い搬入口もある。檻を壊すのは困難であるが、緊急用の鍵をラギが所持している以上、そこからの脱出は不可能というわけではない。
     それでもラギは中にいるのがか弱そうな少女であることから、その心配はないだろうと考えていた。

     ラギは時間を見計らい、ここまで運んで来た食事を載せたトレイを手にとる。そこには具のないスープと固いパン、そして深海魚を思わせるグロテスクな魚が載せられている。どれも冷め切っていて食欲を誘いそうなものはない。とくに魚は酷くロクに火が通されておらず生のようだ。ラギは粗悪な食事に同情しながらも外から搬入口を開け、独房内にトレイをおさめた。
     少女は食事が用意されたことに気がつくとベッドから立ち上がり、音も立てずに歩みよる。少女の姿はまるで貧民街に巣くう子供のように薄汚れてはいたが、そのまっすぐに伸びた背筋と足の運び方が、何か気品のようなものを感じさた。
     少女はトレイの前までやってくると、片方の足でバランスを取りながら残った方の足の指で器用にトレイを掴み持ち上げる。その細長い足をコンパスのように回転させ、トレイを移動させると、そのままゆっくりと降ろす。決して引きずって移動させるような雑な真似はせず、トレイを移動させていく。部屋の真ん中あたりにまで移動させると少女は床に座り込み、その場で食事を摂りはじめた。
     ラギは両腕を封印された少女が直接食器に口をつけ食事をすると考えていた。だが実際にはそのような不作法がされることはなかった。
     少女は両足を浮かせ臀部でバランスをとると、器用にその長い右足の指でフォークを、反対の足の指でナイフを握る。切れ味の悪いナイフで魚を切り分け、先のすり減ったフォークで口元に運ぶ。背筋を整え食事する様は、まるでここではそれが当然のマナーだと思わせる程の光景であった。

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    コメント

    • 少ない文字数とは思わせない程深みのある世界観と、上手い捻りに手を打つ思いでした♪ 
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    • ご感想ありがとうございました♪
      誤字は急いで修正させていただきます。
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    • 看守主体のお話から、少女主体のお話に切り替えてみたのですが……他に反応がないw
      あちこち襲撃にまわるか(ぼそ<コラ
      • 2 fav

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